めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

6月21日、トランプ米大統領は、米軍がイランの核施設3カ所(フォルドゥ、ナタンズ、イスファハン)を空爆したと発表しました。

佐藤:今後の国際秩序を大きく変化させる出来事です。〈米NBCテレビは、米国による初のイラン本土への直接攻撃だ〉(6月23日『朝日新聞』朝刊)と報じました。

 私は、6月23日03時過ぎ(日本時間、イスラエル時間22日21時)にテルアヴィヴ郊外に住む元「モサド」(イスラエル諜報特務庁)幹部と通信アプリで会話しました。この元幹部は工作総局の幹部、「モサド」本部とCIA(米中央情報局)を含むアメリカのインテリジェンス機関とのリエゾン(連絡係)も経験しているので、内部事情に通暁しています。元「モサド」幹部はこんなことを言っていました。

「6月22日のアメリカ軍によるイラン攻撃は、事前にイスラエルとよく協議して行われたものではない。現在のアメリカ政府は、ほぼトランプ大統領による独裁政権と見た方がいい。われわれはトランプ氏のワンマンショーを見せられているのである。ここで重要になるのはトランプ氏の心理状態で、アメリカ合衆国という超大国の政策ではない。トランプ氏は、イランの核能力を破壊することが出来るという歴史的機会を利用して、伝説上の人物になりたいと思ったのであろう。

 トランプ氏は、第一次政権の北朝鮮の核問題解決に失敗した。第二次政権でも、カナダ、グリーンランド、パナマ運河などについて、さまざまな構想を述べたが、一つも実現していない。もちろんロシア・ウクライナ戦争の停戦に関する公約も履行できていない。イスラエルのイランに対する攻撃が成功した後、トランプ氏は自分の手によって今、解決できる問題を見つけたのだ。問題は、イランが報復した場合、トランプ氏がどう行動するかだ」

 

6月23日の夜にイランはカタールの米軍基地を攻撃しました。

佐藤:確かにそうでした。「やられたらやり返す」というのがイランの原則なので、反撃しないというシナリオはありませんでした。ただし、イランはカタールにこの攻撃を事前通告しました。カタールからアメリカに伝わることを織り込んでいるからです。この反撃によってアメリカとの悪化は避けたいということなのでしょう。イランは「大人の論理」で紛争を収めようとしています。

 だから翌24日に、トランプ氏の仲介でイスラエルとイランの間で停戦に関する合意が成立したのです。(2025年7月12日脱稿)

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。