日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。今回は、令和の住宅事情に迫った。
かつては「住宅ローン=35年」が常識とされてきました。しかし今、その常識に静かな変化が起きています。最近では、一部の金融機関で「50年ローン」という超長期の返済プランを選べるようになりました。
長く返済すれば当然、金利も多く支払うことになりますが、低金利が続く中、月々の返済額を抑えられる現実的な手段として若い世代の関心を集めています。
2024年、京葉銀行が首都圏地銀として初めて50年ローンの取り扱いをスタートさせたニュースは衝撃を与えました。従来のフラット35(最長35年ローン)より15年長いこの仕組みは、「若いうちに借りて早く返す」という価値観を見直す契機にもなっています。
京葉銀行の場合、対象者は「完済時の年齢が80歳未満」という条件で、20代がターゲット。新築住宅に限定されているため、資産価値のある物件を持ちやすい点も魅力です。
最大の特徴は、月々の返済額を大きく抑えられること。例えば、1億円の新築マンションを都内で購入した場合、35年ローンでは月27万円ですが、50年ローンでは月約19.9万円と、7万円以上軽減されます。これは若年層にとって大きなメリットであり、マイホーム購入のハードルを下げる要因となっています。
背景には住宅価格の高騰も。東京23区内の新築マンションの平均価格はすでに1億円を超えており、従来のローンでは若者が夢を実現しにくくなっています。地方でも「家は早めに持ちたい」というZ世代の持ち家志向は強く、総務省の家計調査によると2023年の29歳以下の世帯主による持ち家率は35.2%と過去最高を記録しました。
「50年ローンで月々の返済額が減れば、浮いた分を子育てや教育費に充てられる。今の若者は“将来のために今を我慢する”より、“今の暮らしを充実させたい”と考える傾向があり、。返済が長期にわたったとしても、“家を持つことが精神的な安定につながる”ととらえる人も多いようです」(生活情報サイト編集者)
若者たちの声を拾ってみても、「賃貸と変わらない負担で持ち家に住めるならそのほうがいい」「子どもができると広い家が必要になるが収入はすぐには増えない。だから返済が軽い50年ローンは魅力」「一生払い続けるのは不安だけど、どうせ定年まで働くならその間に返すのもアリ」といった声がネットでも多く見られ、現実的な姿勢が見えてきます。
もちろんリスクも。50年後の未来は予測できません。老朽化や資産価値の低下に備える必要があり、仮に1億円を借りた場合、総返済額は35年ローンより約600万円増える計算にもなります。金利変動や老後の収入不安も無視できません。
それでも若者たちは、“今を豊かに生きる”ために柔軟な選択をしています。長期ローンという新しい住宅購入スタイルは、現代のライフスタイルの変化を映す鏡となっているのです。
戸田蒼(とだ・あおい)
トレンド現象ウォッチャー。
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。