めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

7月7日、アメリカのドナルド・トランプ米大統領が日本に課す新たな「相互関税」の税率を25%にすると表明しました。

佐藤:トランプ大統領が口にする数字に積算根拠なんかありません。数字はトランプ氏の心を反映したものです。その点で、35%や30%ではなく、25%という数字が出てきたことは日本にとって悪い話ではありません。トランプ氏が日本に対して強い悪感情を持っているわけではないという証左だからです。ブラジルに対しては、関税率を10%から50%に引き上げたのは、今のブラジル政府をトランプ氏が嫌っているからです。

 

トランプ氏は、欧州連合(EU)に50%の高関税を課すと脅しながら発動直前で延期したり、中国との関税交渉でも妥協が目立ちます。トランプ氏は、「張り子の」に過ぎず、その物言いを真剣に受け止めなくてもいいんじゃないでしょうか。

佐藤:トランプ氏を「張り子の虎」と見るのは危険です。なぜなら、トランプ氏はほんものの虎だからです。虎の尾を踏むことは避けなくてはなりません。ましてや、トランプ氏を交渉で論破しようとするのは、竹箒で虎の目を突くような暴挙に他なりません。トランプ氏の心の様子を見て、適切なタイミングで首脳会談を行い、政治解決を図る以外の選択肢はないと思います。

 

トランプ氏は本気で関税を武器にした保護主義にアメリカの経済政策を転換しようとしているのでしょうか。

佐藤:私は本気と見ています。トランプ政権が本気で保護主義に舵を切ったという現実を見据えることが重要です。この方向性は、今後も変化しないと私は見ています。アメリカが保護主義に舵を切れば、全世界がそれに追従せざるを得なくなります。大きな視点で見るとグローバリゼーションが行き過ぎたため、資本主義が生き残るために保護主義的政策転換が必要とされているのです。

 日本も関税政策を大きな柱とする新たな経済戦略を策定することになるでしょう。当然、それに伴って産業構造の転換が起きます。日本の経済界は、リアリスト集団なので、現実を見据え、保護主義的転換を始めていくと思います。トヨタ、日産、ホンダなどはアメリカに工場を建設すると思います。もっとも、トランプ氏がEV(電気自動車)化の流れに歯止めをかけ、ハイブリッド車を含むガソリン車を残す方針を明確にしたことは、日本の自動車産業にとっては大きなプラスです。
(2025年7月12日脱稿)

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。