めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

日本ではあまり報じられていませんが、7月27日に北朝鮮で祖国解放戦勝記念日が盛大に祝われたそうです。

佐藤:その通りです。1953年7月27日、北朝鮮軍、国連軍(事実上は米軍)、中国人民解放軍との間で、朝鮮休戦協定が署名されました。この協定により、朝鮮戦争は停戦となりましたが、平和(講和)条約が締結されていないので現在も国際法的には戦争状態が続いています。

 停戦協定から40年経った1993年7月27日から、北朝鮮はこの日を祖国解放戦争勝利記念日という祝日に指定し、今日に至っています。

 

今年の特徴は何でしょうか?

佐藤:7月27日の国営『朝鮮中央通信』の報道を注意深く読むと、北朝鮮がアメリカと韓国に対して重要なメッセージを出していることがわかります。27日付けの『労働新聞』は社説で、北朝鮮は、祖国解放戦勝記念日を、朝鮮戦争の終結という過去の出来事であることを強調しています。現在のアメリカのトランプ政権と対峙する姿勢を示していません。

 さらに過去、北朝鮮が繰り返し述べていたアメリカとの平和条約締結による朝鮮戦争終結の必要性についても言及していません。金正恩氏は、〈鋼鉄の胆力と度胸、力強い攻撃力をもって反帝・反米対決戦でいつも百戦百勝だけを収める不世出の総帥である〉(7月27日『朝鮮中央通信』日本語版)ので、平和条約を締結しなくても、アメリカとの共存体制を構築することができるという認識を表明しているのだと思います。

 さらに南朝鮮(韓国)に対する言及が文字通り一言もありません。1993年に祖国解放戦争勝利記念日が制定された時点では、朝鮮戦争のそもそもの目的が南朝鮮の同胞をアメリカとその傀儡政権による軛から解放し、朝鮮の統一を実現することが目的とされていました。それが、現時点では、北朝鮮はすでに朝鮮戦争で勝利しているという認識にすり替わっています。現在の金正恩政権は、韓国を「第一の敵国」と定め、南朝鮮との統一という方針を放棄しています。北朝鮮の党、政府機関に存在していた統一関係部局もすべて解体してしまいました。

 北朝鮮は、韓国ともアメリカとも互いに主権国家として、対等の関係を構築したいというメッセージを今回、送っているのです。アメリカのトランプ大統領が国交正常化交渉を呼び掛ければ金正恩・朝鮮労働党総書記が応じる可能性は十分あると思います。(2025年7月28日脱稿)

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。