めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

――8月15日(日本時間16日)、トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が、米アラスカ州アンカレッジの米軍基地で会談しました。新聞やテレビの報道だとロシア・ウクライナ戦争の停戦に向けた動きはなかったようですが……。

佐藤:記者たちの取材力と分析力が弱く、何が起きたかを正確に読み取れていないので、そういう頓珍漢な評価になるのです。

 

――佐藤さんは成果があったとみているのですか。

佐藤:具体的合意が表に出ていないとしても、停戦について、かなり深いやりとりがなされたことは間違いありません。首脳会談直後に行われたプーチン氏との共同記者会見で、トランプ氏は、

私たちは週に5千、6千、7千人、何千人もの人が殺されるのを止めるつもりですし、プーチン大統領も私と同じようにそれを望んでいます。(8月16日『朝日新聞』デジタル版)

と述べました。今回の首脳会談で、ウクライナにおける停戦に関する協議がなされなければ、トランプ氏がこのような発言をするはずがありません。

 

――なるほど。停戦案の内容はどのようなものなのでしょうか?

佐藤:ウクライナやヨーロッパ諸国が主張する即時停戦案ではなく、プーチン氏が主張する領土問題や安全保障問題の解決も含む包括的な平和条約を締結するという案だと思います。

 トランプ氏は会談後のFOXニュースとのインタビューで、プーチン氏と「領土交換」を議論したと述べた。「ロシアと合意できるかどうかはゼレンスキー氏次第だ」とし「取引に応じるべきだ」と呼びかけた。欧州も関与してロシアとウクライナの首脳会談の調整が進むとした。トランプ氏は16日、停戦合意より、和平合意を目指すことが終戦に向けた最善策だと自身の交流サイト(SNS)に投稿した。(8月16日『共同通信』)

 

――ウクライナはこの提案を呑みますか。

佐藤:ウクライナのゼレンスキー大統領にとって、この提案を受け入れることは難しいと思います。トランプ氏は、「安全の保証」としてロシア、ウクライナ、ヨーロッパ諸国が互いに国境の武力による変更の禁止、内政不干渉などを約束するOSCE(欧州安全保障協力機構)のような集団安全保障型のものである可能性があります。いずれにせよ、今後はアメリカとウクライナ・ヨーロッパの間で緊張が強まるでしょう。(2025年8月19日脱稿)

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。