めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――8月23日、首相官邸で石破茂首相は韓国の李在明大統領と会談しました。会談後には共同記者会見が行われ、共同文書が発表されました。
若者が働きながら相手国に長期滞在できる「ワーキングホリデー」のビザ(査証)の拡充で一致した。人的往来を増やすため、両国とも相手国の若者が2回までビザを取得できるようにする。水素、アンモニア、人工知能(AI)の分野でも連携を深める。(8月23日『日本経済新聞』電子版)
ということで、今後、日韓関係は改善しそうです。李在明氏は、対日強硬派として有名です。なぜ、李氏は日本に対して融和的姿勢に転じたのでしょうか。
佐藤:私は、李氏が日本を就任後初の外遊先にし、しかも日本に対して融和的姿勢をとった理由は、アメリカのトランプ大統領の信頼を得るためと見ています。
――李氏はトランプ氏の意向を忖度して対日関係を改善したということですか?
佐藤:私はそう見ています。8月25日に行われた米韓首脳会談に関する韓国の保守系紙『中央日報』の報道を読むと、その構造がよく見えてきます。
李在明大統領は25日(現地時間)、ドナルド・トランプ大統領との韓米首脳会談で、「韓米日の協力は非常に重要な課題だ」とし、「韓米関係の発展のためにも、韓日関係もある程度整理されなければならない」と述べた。
(中略)李大統領は「トランプ大統領が韓米日の協力を非常に重視しているので、私が大統領に会う前にあらかじめ日本に行って大統領が心配するような問題をあらかじめ整理してきたと考えていただければ良い」と話した。(8月26日『中央日報』日本語版)
――トランプ氏は北朝鮮との関係改善にも意欲的じゃないのでしょうか?
佐藤:この点も重要です。トランプ氏は、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党総書記に対して好感情を抱いています。韓国の頭越しで、アメリカが北朝鮮との関係正常化に踏み込む可能性も排除されません。このことを踏まえ、日米韓の連携を重視するトランプ氏の感情を損ねることがないように、李在明氏は日本に対して融和的姿勢を取るようになっているのです。
――すると、トランプ氏の北朝鮮との関係改善に対する強い想いが、結果として韓国の対日強硬政権の態度を軟化させたのですね。
佐藤:そうです。石破首相はたいした努力をせずに大きな成果を得たのです。
(2025年8月27日脱稿)
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。