めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――かつてはアメリカのトランプ大統領と親しいと見られていたインドのモディ首相ですが、現在はタフネゴシエータぶりを発揮しています。
ドイツ紙のフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(FAZ)は(8月)26日(現地時間)、トランプ大統領が最近数週間で4回以上モディ首相との通話を試みたが、モディ首相が応答しなかったと伝えた。27日(現地時間)0時から米国へ輸出されるインド産商品の適用関税50%をめぐる、トランプ大統領の土壇場での交渉試みをモディ首相が拒んだ形となった。
(中略)かつて互いに「真の友」と称え合った2人の「ブロマンス」は、トランプ大統領の「関税爆弾」以降、亀裂音を立ててきた。(8月28日、韓国紙「中央日報」日本語版)
とのことです。
佐藤:電話を4回も無視され、トランプ氏は激高したと思います。このような状況を石破茂首相はもちろんよく理解したうえで、インドとの関係を改善しようとしています。
――8月29日に東京で石破茂首相とインドのモティ首脳が会談しました。どんな成果があったのでしょうか。
佐藤:国民は関心を持ちませんでしたが、戦略的な会談でした。
両首相は、次世代の安全と繁栄のため「相互補完的な関係を構築することが不可欠」とする共同声明を発表。防衛・安全保障、経済連携、人的交流を優先分野として緊密に協力していくことで一致した。(8月29日「朝日新聞」デジタル版)
のです。
――2022年2月24日にロシア・ウクライナ戦争が勃発した後も、西側連合がロシアの原油輸出に対して制裁を掛けているのを利用し、インドは安価になったロシア産原油の購入を増大しています。
佐藤:その通りです。さらに去年(24年)7月にモディ氏はロシア・ウクライナ戦争後、初めてロシアを訪問し、7月9日のプーチン大統領との会談では経済や軍事の連携強化に合意しました。モディ氏の姿勢は、ウクライナのゼレンスキー大統領よりもプーチン氏に近いです。
――そんなインドに安全保障で接近して、日本に悪影響はないのでしょうか。
佐藤:ありません。ロシア・ウクライナ戦争と日本とインドの関係を結びつける必要はありません。それぞれの問題で日本は自国の利益の極大化を図ればいいのです。
日本にとって最大の脅威は中国です。その中国を牽制するうえで日本がインドとの安全保障協力を進めることはとても重要です。
(2025年9月20日脱稿)
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。