めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――9月3日、北京における「抗日戦争(日中戦争)勝利80年記念式典」に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記、ロシアのプーチン大統領が招かれました。
佐藤:中国が、9月3日を「抗日戦争勝利記念日」と定めたのは、ソ連のスターリンがこの日を「軍国主義日本に対する勝利の日」としたことの影響によるものです。中朝ロ3国による日本批判キャンペーンが行われても不思議でなかったのですが、そのようなことはありませんでした。むしろ中朝ロの現下国際情勢における結束が強調されました。
――報道の関心は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の動静に集まりました。
佐藤:確かに、この会合を特に重視したのが北朝鮮です。
北朝鮮の金正恩総書記が4日、訪問先の北京で中国の習近平国家主席と約6年3カ月ぶりに会談した。中国側は夕食会も含めて金氏をもてなし、両国関係を発展させていくことで双方が一致した。対米国などを見据え、ぎくしゃくしていたとされる関係の修復を内外にアピールした形だ。(9月5日『朝日新聞』デジタル版)
2022年2月24日にロシア・ウクライナ戦争が勃発した直後から、北朝鮮はロシアを支持する姿勢を鮮明にし、2024年8月にウクライナ軍がロシア領クルスク州に侵攻した後は、北朝鮮も傭兵をクルスク州に派遣するようになりました。急速にロシアに傾斜する北朝鮮を引き留めるために習近平氏は、金正恩氏に対してプーチン氏と同等の接遇をしたのだと思います。
――その結果、北朝鮮は中国寄りになったのでしょうか。
佐藤:そうではありません。金正恩氏の心がロシアに傾いていることは、9月3日の朝ロ首脳会談について報じた朝鮮中央通信の報道からも明白です。ロシア・ウクライナ戦争でも、金正恩氏は今後もロシアを軍事的に支援する意志を明確にしました。
金正恩国務委員長は、朝鮮民主主義人民共和国は今後も、国家主権と領土保全、安全利益を守るためのロシアの政府と軍隊、人民の闘争を全面的に支持するであろうし、それを兄弟の義務と見なし、朝ロ国家間条約の履行に変わることなく忠実であろうと述べた。(9月5日『朝日新聞』デジタル版)
北朝鮮のロシア・ウクライナ戦争への関与は、今後一層深くなると思われます。北朝鮮にとって、中国は経済的に重要ですが、ロシアは政治、軍事、経済のすべての面で重要なパートナーです。(2025年9月20日脱稿)
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。