めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

――北朝鮮の国会に相当する最高人民会議が9月20、21日、平壌で行われました。この席で行った演説で金正恩・朝鮮労働党書記長が韓国との統一を断念するという話をしたそうですね。

佐藤:そうです。金正恩氏は、韓国を一切相手にしないと啖呵を切りました。

 この機会を借りて、韓国との関係に対するわれわれの立場をより明白にしたいと思います。

 われわれには韓国と対座することがなく、どんなことも共にしないでしょう。

 一切相手にしないということを明らかにします。(9月22日『朝鮮中央通信』日本語版)

 

――どうしてでしょうか。

佐藤:国際社会おける力関係を考えた場合、朝鮮半島の統一は、韓国に北朝鮮が呑み込まれる形でしかありえないと金正恩氏が認識しているからです。保守派であろうが、民主派であろうが歴代韓国の政権は、金一族体制の崩壊と、韓国への北朝鮮の併合を狙っているという見方を金正恩氏は示します。

 われわれは、大韓民国の歴代の執権者が追求することをうんざりするほど目撃してきました。

 ほぼ80年間にわたる朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国の激しい対決歴史と現実は「民主」を標榜しても、「保守」のベールをつけても、われわれの体制と政権を崩壊させるという韓国の生まれつきの野望は変わったことがなく、また絶対に変わることもあり得ず、敵はやはり敵であることをはっきりと示しています。

 特に、国益の見地からしても、われわれは政治、国防を外部勢力に依存した国と統一する考えは全くありません。(9月22日『朝鮮中央通信』日本語版)

佐藤:金正恩氏のこの認識は正しいです。

 マスメディアでは、北朝鮮に融和的であると書かれることが多い韓国の民主派でも、その統一戦略は事実上、韓国に北朝鮮を併合するという路線をとっています。

 

――要するに金正恩体制を守るために統一を断念したということですね。

佐藤:そういうことです。金正恩氏は、韓国との統一が不必要であることを法制化(憲法に書き込む)すべきであると主張しています。

 どちらの一つがなくならずには実現できない統一を、なぜわれわれがする必要があるのでしょうか。

 われわれは明らかに、われわれと韓国は国境を挟んだ異質的な、決して一つになれない二つの国家であることを国法に明記するでしょう。(9月22日『朝鮮中央通信』日本語版)

佐藤:統一放棄という北朝鮮の路線は不可逆的と思います。(2025年9月24日脱稿)

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。