めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――10月17日、ホワイトハウスでトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が会談しました。2人の間で激しい口論が起きたという話ですが。
佐藤:どうもそのようです。ゼレンスキー氏は、トランプ米大統領を味方にし、モスクワを攻撃できる米国製トマホーク・ミサイルを入手しようとしていますが、うまくいきませんでした。
複数の欧米メディアは(10月)19日、トランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に対し、ロシアの要求を受け入れるよう迫ったと伝えた。「そうでなければウクライナは滅ぼされる」との趣旨の発言もあったという。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、トランプ氏は17日のワシントンでの会談で、ゼレンスキー氏を終始罵倒し、「怒鳴り合い」になる場面も目立った。ウクライナ側が示した戦況地図も投げ捨てたという(10月20日『朝日新聞』デジタル)
トランプ氏の対ロシア戦略の大枠にぶれはありません。それは以下のようなものです。「ロシアとの協力態勢を強化することがアメリカの国益に適う。ロシア・ウクライナ戦争は、バイデン前米大統領によって始められた私戦で、アメリカの国益と関係ない。ウクライナのゼレンスキー大統領は、バイデン氏の代理人で、俺(トランプ氏)たちの側の人間ではない。ロシア・ウクライナ戦争は、一種の不良債権で、早く損切りしなくてはならない」。
この認識を踏まえておけば、米ロ関係の基本的な流れを捉え損ねることはありません。
――トランプ氏は、ハンガリーの首都ブダペシュトでプーチン氏と2週間以内に会談するつもりだと述べていましたが、この会談は、中止になりました。
米ホワイトハウス高官は(10月)21日、トランプ大統領とロシアのプーチン大統領の首脳会談について「近い将来には計画されていない」と明らかにした(10月22日『朝日新聞』デジタル)
とのことですが、今後、米ロ関係は悪化するのではないでしょうか。
佐藤:その心配はありません。米ロ関係は依然として良好です。トランプ氏は、ドネツク州とルガンスク州の全域をロシアに割譲するというプーチン氏の要求を認めないと、ロシア・ウクライナ戦争を停戦に導くことはできないと認識しています。アメリカはこの方向でウクライナに同意を求めているのですが、ウクライナもヨーロッパ諸国(とりわけドイツ)が頑強に抵抗しているため、ロシアとの停戦条件を整えることができません。だからトランプ氏はブダペシュトでの米ロ首脳会談を断念したのです。今後、トランプ氏はウクライナに圧力をかけ、停戦を実現しようとするでしょう。(2025年10月23日脱稿)
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。