めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――日中関係が急速に悪化しています。11月7日、衆院予算委員会において、
高市早苗首相は、中国による台湾侵攻に関し「武力攻撃が発生したら(日本の)存立危機事態にあたる可能性が高い」と明言し、歴代内閣の公式見解を踏み越えた。
(高市首相は)「やはり、戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば『存立危機事態』になりうるケースであると、私は考えます」(11月7日『朝日新聞』デジタル版)
と述べました。
佐藤:実に危ういです。この答弁に「戦艦」という言葉があることに注目してください。戦艦という範疇の艦船を、中国は持っていません。また現代の安全保障の論議で、戦艦の使用について言及されることは皆無です。従って、「戦艦」という言葉を用いたこの答弁は、外務省や内閣法制局の官僚が関与していない、高市氏の独創的見解と見たほうがいいです。
――高市さんの脳内世界がそのまま言葉になってしまったわけですね。
佐藤:そうとしか思えません。
――中国は高市氏の発言に激しく反発しています。高市発言を契機に日中関係は急速に悪化しています。
また、高市氏の危うい発言は「存立危機事態」にとどまりません。11月11日の衆議院予算委員会では、安全保障関連3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書で構成される)の改訂との文脈で、「非核三原則」の変更を示唆する答弁をしました。
佐藤:公明党が高市氏の従来の政府方針から逸脱した右翼的答弁を危惧しています。核廃絶、東アジアにおける戦争の阻止は、公明党の基本政策です。「存立危機事態」「非核三原則」に関して、公明党の斉藤鉄夫代表が質問主意書を提出しました。
質問主意書は閣議決定を必要とし、首相を含む政府全体を拘束します。質問主意書の答弁が持つ意味は、国会にける首相答弁よりも遙かに重いのです。答弁書の作成に当たっては、外務省や内閣法制局なども関与するので、「存立危機事態」の適用基準や、「非核三原則」を変更することは考えられません。
高市早苗首相名で、彼女の国会答弁の内容を否定させるというのが公明党の狙いです。斉藤氏は平和を守るために、公明党らしい叡智を用いた闘いを展開しています。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。