めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――アメリカのトランプ大統領がロシア・ウクライナ戦争の調停に本格的に乗り出しました。その和平案は、ウクライナに対してNATO(北大西洋条約機構)には加盟しない、クリミアと東部2州(ドネツク、ルハンスク)は米国を含む国々から事実上の「ロシア領」として承認されるなどというものです。
佐藤:そうでないと和平は成立しないという、トランプ大統領の現実的判断です。
――しかし、ウクライナとヨーロッパ諸国が巻き返して、ロシアが受け入れられないような案になってしまいました。
佐藤:ウクライナの妨害をトランプ氏は面白く思っていません。和平案のやりとりが大詰めの11月末から、ウクライナ捜査当局による腐敗汚職捜査が急進展しました。11月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領が政権の事実上のナンバー2だったアンドリー・イエルマーク大統領府長官を解任しました。イエルマーク氏は、俳優だったゼレンスキー氏の劇団時代からの親友です。
ウクライナでの高官の汚職摘発とトランプ大統領の和平交渉が連動しているのではないかという見方を、ロシアの政治学者アレクサンドル・カザコフ氏(与党「公正ロシア」幹部会員〔非議員〕)が示しています。カザコフ氏は、11月21日付「ベラルーシのスプートニク」の動画でこんなことを述べました。
「すべては今年8月、アラスカでトランプ氏とプーチン氏が会談したときに始まった。両者は何かについて合意したが、その内容は今でも誰にもわからない。トランプ氏は『プーチン氏はすべてを望んでいるが、取引には応じる用意がある』と口を滑らせた。
その後、トランプ氏の主要な反対勢力であるグローバリスト、大西洋主義者、キエフ政権の連合が、米国側をこの方針から脱線させることに成功した。この期間、トランプ氏は、ユーロアトランティストたちに打ち勝つことはできず、彼らに自分の望むことを強制することもできないと思っていた。
しかし、最近になってトランプ氏は、自らの計画を妨害するための道具になっているゼレンスキー政権を崩壊させることを決めた。これが現在進行中の謀略の本質だ」
アメリカの働きかけなくして、ウクライナの捜査当局がイエルマーク氏の家宅捜索に本格的に乗り出すことはありません。ロシアとの和平交渉を妥結させるためには、ゼレンスキー政権を解体する必要があるとトランプ氏が考えているのかもしれません。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。