めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――小泉進次郎防衛相が12月7日午前2時過ぎ、防衛省で臨時の記者会見を開き、沖縄本島南東の公海上空で6日午後、中国軍機が自衛隊機に対し、2回にわたって断続的にレーダー照射を行ったと発表しました。
防衛省幹部によると、中国軍機が自衛隊機に対し、攻撃目標を定める火器管制用のモードで使用した可能性が高いという(12月8日『朝日新聞』朝刊)
ということです。
佐藤:こういう出来事に関しては事実関係の確定が重要です。
――中国側の発表は日本側と異なります。
中国外務省報道官は8日の記者会見で、航空自衛隊の戦闘機に対する中国軍機のレーダー照射問題を巡り、「艦載機が飛行訓練中に『捜索レーダー』を作動させるのは、各国の通常動作であり、飛行の安全を確保するための正常な操作だ」と述べ、中国軍の行動を正当化した。火器管制用レーダーの照射があったかどうかは明言しなかった(12月8日『読売新聞』オンライン)
ということです。
佐藤:私は日本政府の公務員ではないので、現時点では日中のどちらの主張が正しいかをあえて確定せずに考察します。中国機が火器管制用のモードのレーダーを使ったということならば、中国が日本との武力衝突の腹を括っていたということになるので、質的に異なる緊張段階に入ることになります。
本件に関する日本政府の発言が少しずつ変化しています。
木原稔官房長官は9日の記者会見で「捜索のためでも、今般のような形で断続的に照射することはない。危険な行為だ」と反論した(12月9日『朝日新聞』デジタル版)
防衛省関係者は、当初、ミサイル発射に向けた準備段階となる火器管制レーダーを中国機が照射したという情報をマスメディアに流していましたが、中国が捜索目的のレーダーであると反論してから、火器管制か捜索目的かを問わず、断続的なレーダー照射が危険だという、これまでと異なる情報を流すようになりました。火器管制と捜索目的では異なる電波が使用されるので、レーダー照射を受けた自衛隊機のパイロットはいずれであったかを正確に認識しているはずです。防衛省がリークする情報の「揺れ」が私には気になります。
こういう場合、日本政府が中国政府に対して、事実関係を解明する実務者協議を呼び掛けるのがいいと思います。時間を稼ぎ、事態の沈静化を図るのです。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。