めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

――バルカン半島のアルバニアで、AI(人工知能)を行政や議会で積極的に活用する構想が進んでいます。

アルバニアのラマ首相は(2025年9月)11日、公共入札を担当する閣僚にAI(人工知能)を任命すると発表した。ロイターなどが報じた。政府が民間企業と契約する全ての公共入札の管理と決定を担うといい、米メディアは「世界初のAI閣僚」だとしている(2025年9月13日『朝日新聞』デジタル版)

世界最先端の動きではないでしょうか。

佐藤:アルバニアの特殊事情を考えると、この国でAIを行政や議会で積極的に活用することを手放しで礼賛すべきではないと思います。

 アルバニアも東欧社会主義国の1つでしたが、独裁者エンヴェル・ホッジャ(1908~85年)の下で、徹底した孤立主義政策をとり、ソ連とも国交を断絶しました。アルバニアの社会主義体制は1992年に最終的に崩壊しましたが、市場経済の経験がほとんどないため2つの「ねずみ講」が国家を支配するようになりました。

 

――「ねずみ講」ならば、当然、破綻しますね。

佐藤:その通りです。1997年に「ねずみ講」が破綻した後、アルバニアの政府はいずれも、首都チラナ周辺と政権党の部族が統治する地域しか実効支配できていない状況が続いています。アルバニアは社会主義時代を含め、前近代的な部族支配が続いている国です。部族内での助け合いの伝統が機能しているので、政府が破綻しても人々は生きていくことが出来るのです。

 

――こういう国とAIが結合すると、どういうことになるのでしょうか。

佐藤:この点に関して、慶應義塾大学の山本龍彦教授(憲法学)の以下の指摘がとても重要です。

まず念頭に置かなければいけないのは、AIは決して中立的ではないということ。アルゴリズムの背後には必ず設計者がいて、その意図は「AI」という看板によって見えにくくなる。
縁故やコネによる汚職を解決するどころか、逆に隠蔽の「煙幕」にもなり得ます。権力構造がブラックボックス化し、批判すらできない状態にもなり得ます(1月2日『朝日新聞』デジタル版)

 アルバニア政府のAI導入は、現在統治する部族の腐敗・汚職を隠蔽し、権力を強化する機能を果たすと思います。

画面に映し出されたアルバニアのAI大臣“ディエラ”(右)
画面に映し出されたアルバニアのAI大臣“ディエラ”(右)※画像/産経ビジュアル

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。