めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――1月2日の深夜から3日未明にかけて米軍がベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領夫妻を拘束しました。夫妻はニューヨークに連行され、麻薬密輸やテロ容疑などで裁判にかけられるということです。これからベネズエラはどうなるのでしょうか。
佐藤:マドゥロ氏の拘束によりロドリゲス副大統領が大統領代行に就任しました。ロドリゲス氏は現実主義者(リアリスト)です。マドゥロ夫妻の拉致については、建前上、批判を続けざるを得ませんが、アメリカのトランプ大統領と手を握ることが、自分たちのグループ、ベネズエラ国民が生き残るのに最適解と考えていると思います。
――トランプ氏はロドリゲス大統領代行の元でのベネズエラ暫定政権に、どう対処するのでしょうか。
佐藤:ひじょうに前向きです。トランプ氏には、ベネズエラに民主主義や人権尊重を求めるつもりはありません。ベネズエラ国家指導部がトランプ氏に対して従順になり、アメリカの権益が擁護されれば、それで十分だというのが本音なのでしょう。
その関連で、1月4日、大統領専用機内で行われた会見で
(トランプ氏は)ベネズエラは我々の領域だ。それが(西半球での権益確保を追求する)『ドンロー・ドクトリン』だ」と述べた。かつて米国が南北米大陸と欧州大陸の相互不干渉を訴えた「モンロー主義」に、自らの名前「ドナルド」を加えてもじった表現だ(1月5日『朝日新聞』デジタル版)
と述べました。「ドンロー・ドクトリン」は、アメリカの武力を背景にカリブ海諸国に影響力を行使したセオドア・ルーズベルト第26代米合衆国大統領(任期1901~09年)の「棍棒外交」(Big Stick Diplomacy)を想起させます。そもそもモンロー主義には、棲み分けに基づく帝国主義という要素があります。トランプ氏もその伝統を継承していると見ることもできます。
――トランプ氏の外交政策が、ロシアのプーチン大統領に似てきていますね。
佐藤:トランプ氏もプーチン氏も民主主義や人権というような価値観には冷ややかで、地政学と経済権益を重視しています。プーチン氏と交渉を重ねるうちに、トランプ氏が無意識のうちにプーチン氏の手法を体得していったのかもしれません。アメリカのベネズエラへの軍事介入を本音でもっとも歓迎しているのはロシアです。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。