めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

――2月28日、アメリカとイスラエルがイランを先制攻撃しました。その結果、イラン最高指導者のハメネイ師が死亡しました。アメリカとイスラエルの狙いは何なのでしょうか。

佐藤:両国の狙いは、イランのイスラム革命体制を転覆することです。外国の国家元首を殺害して、政権転覆を図るという前代未聞の事態が生じました。

 

――こういう行動は国際法に違反するのではないでしょうか。

佐藤:既存の国際法を前提とするならば、この攻撃はイランの主権を侵害しており、国際法違反です。しかし、今回の攻撃が国際法に合致しているか否かというような議論には意味がありません。

 

――どうしてですか?

佐藤:国際法が「生き物」だからです。アメリカとイスラエルによる、イランの体制転覆を目的とした軍事行動という現実が、「新しい国際法」を形成しつつあると私は見ています。トランプ氏は、1月、米軍がベネズエラを攻撃した際に国際法についてこう述べました。

  トランプ米大統領は(1月)8日公開の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで「国際法は必要ない」と明言した。トランプ政権として国際法には従うと述べつつ「国際法の定義次第だ」と語った。

 インタビューは7日に実施した。米軍の最高司令官としての判断について「自らの道徳観」にのみ制約されると表明した(1月9日『日本経済新聞』電子版)

 トランプ氏は、アメリカは既存の国際法に従う受動的客体ではなく、新しい国際法を形成することができる能動的主体であると考えています。トランプ氏の登場によって、国際法も変容していくことになります。


――日本政府はどう対応していますか。

佐藤:高市早苗首相は2月28日、自身のX(旧ツイッター)に

  「一報を受け、直ちに私から関係省庁に対し、情報収集を徹底すること、残っておられる邦人の安全確保に向け万全の措置を講じることを指示しました」(2月28日『毎日新聞』電子版)

と投稿しました。国際法的な評価を避けて、情報収集と邦人保護に徹するという姿勢を示しています。アメリカのトランプ大統領との軋轢を引き起こさないように細心の配慮をしています。高市氏も国際法が「生き物」であることに気付いているのだと思います。

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。