めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――3月9日にアリ・ハメネイ前最高指導者の次男であるモジタバ・ハメネイ師がイランの最高指導者に選出されました。モジタバ師の権力基盤は盤石でしょうか?
佐藤:その点については、専門家の間で意見が分かれています。私はモジタバ師の権力基盤は脆弱と見ています。師は、3月12日に就任後初めての声明を発表しました。モジタバ師は戦闘員に謝意を表すると共にホルムズ海峡の閉鎖を続けよと指示しました。
祖国が覇権主義勢力の攻撃を受けている中で勇敢に戦い、敵の進撃を阻止している戦闘員に心から感謝する。
親愛なる戦闘員の兄弟たちよ、国民の願いは「効果的で敵を後悔させる防衛の継続」である。また、ホルムズ海峡の封鎖という手段は引き続き使用されるべきだ(3月13日『Pars Today』日本語版)
モジタバ師の権力基盤が、「祖国が覇権主義勢力の攻撃を受けている中で勇敢に戦い、敵の進撃を阻止している戦闘員」、すなわちイスラム革命防衛隊であることが示唆されています。また、ホルムズ海峡封鎖が、現時点でイランが持つ最大のカードであるという認識をモジタバ師は繰り返し表明しています。
――ホルムズ海峡封鎖は瀬戸際外交として効果をあげているように思えます。
佐藤:しかし、こういう姿勢を示し続けていると、欧米諸国のみならずロシアや中国までが、「経済の障害になるイスラム革命政権を叩き潰せ」という方向に靡くようになるという近未来のシナリオが、モジタバ師には見えていないようです。アメリカにホルムズ海峡封鎖を解除する能力があるという現実を、モジタバ師は認識していません。
イランの戦略は、ホルムズ海峡閉鎖という手札1枚しかない脆弱なものです。ドイツの社会哲学者ハーバーマスは、“危機は当該システムの存続維持のために必要とされるよりも乏しい問題解決の可能性しか残されていない場合に生ずる”(『後期資本主義における正統化の問題』岩波文庫)と指摘しています。現状でモジタバ師は、イスラム革命防衛隊しか掌握しておらず、外交カードを切ることができません。ホルムズ海峡封鎖をアメリカ軍が実力で解除すれば、イランには取り引き手段がなくなります。
日本の報道関係者や有識者は、危機を切り抜けるのに足る十分な手段を持っていないモジタバ体制の力を過大評価しているように思えてなりません。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。