めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――3月24日に現職自衛官が東京の中国大使館の敷地に侵入し、刃物を持ち込む事件がありました。この事件は、今後の日中関係にどのような影響を与えますか。
佐藤:日中関係への悪影響を与えることは確実ですが、それをミニマム(極小)にしなくてはなりません。
本件が、大使館の不可侵を定めたウイーン条約違反であることは明確です。国際常識では通常、真相究明をし、瑕疵があれば謝罪し、損害があれば補償、責任者の処罰、再発防止措置を約束します。日本の反応は以下のようなものでした。
「法と規律を順守すべき自衛官が在京中国大使館の敷地内に侵入し、建造物侵入の容疑で逮捕されたことは誠に遺憾だ」。小泉進次郎防衛相は(3月)27日の記者会見で、初めて事件に言及した(3月28日『朝日新聞』デジタル版)
――なぜ小泉氏は、遺憾の意と再発防止措置だけを述べ、謝罪、真相究明、損害賠償などについて言及しなかったのでしょうか。
佐藤:よくわかりませんが、政府内で間違った認識をしている人がいるのかもしれません。
政府内では「大事になるような性質の事件ではない」(官邸幹部)と事件をことさら問題化させないようにする雰囲気が強い一方、中国の出方をはかりかねている。一部には「中国にとって良い政治カードとして使われる可能性がある」(防衛省幹部)との懸念も出ている(3月28日『朝日新聞』デジタル版)
とのことです。
しかし、今回の件のように日本側に瑕疵があることが明白な場合は、早く謝罪して、幕を引いてしまった方が国益に適います。
――中国側の態度はどうですか。
佐藤:中国側にも事態を悪化させる意図はないと思います。
中国外務省の林剣副報道局長は27日の定例会見で事件後の日本の対応について問われ、「遺憾の意を表明しているが、到底不十分である」と批判。25日の会見でも「自衛隊員の管理・教育を怠り、中国大使館と外交官に対する警備責任を果たせなかった」と述べ、日本がウィーン条約の義務を履行できなかったと批判した(3月28日『朝日新聞』デジタル版)
鍵になるのは林剣氏の用いた「到底不十分である」という言葉です。中国側が小泉氏の遺憾の意と再発防止措置の表明をまったく評価していないならば、「日本側の主張は受け入れられない」と答えるからです。中国側は、日本が遺憾の意と再発防止措置について述べたことを肯定的に評価しているのですが、「それだけでは足りない」と述べているのです。外交交渉での軟着陸が十分可能です。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。