めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――パキスタンで行われていたアメリカとイランの停戦協議が4月12日に終了しましたが、最終的な合意には至りませんでした。日本にとってエネルギー安全保障の生命線であるホルムズ海峡は現状のままになり、米軍とイラン革命防衛隊の間でいつ武力衝突が発生してもおかしくない不安定な状態が続きます。なぜこのようなことになっているのでしょうか?
佐藤:過去1カ月、イラン危機を巡るトランプ米大統領の振幅が、かつてなく大きくなっています。その原因は、恐らく、トランプ氏の内面の変化に関係していると思います。
第1は、トランプ氏が、刺激に対する反応という因果モデルで動いている可能性です。フランスの家族人類学者エマニュエル・トッド氏が説く、トランプ氏は宗教ゼロの人間で、権力欲、征服欲、ナルシシズム、破壊衝動だけで動かされているという解釈も、こういう見方に基づいています。それならば、イラン危機を解決するにはアメリカの良識派と国際社会が連帯して、トランプ氏を抑え込むしかないということになります。
――トランプ氏を抑え込むのは難しいと思います。
佐藤:現実的には、2029年1月のトランプ氏の任期終了を持つしかないでしょう。
第2は、トランプ氏がイランの核開発を阻止し、世界に平和をもたらすのが神から与えられた使命だと確信している可能性です。現在の戦争は、核戦争を阻止し、恒久平和を実現するために必要ということになります。25年6月にイスラエルとアメリカがイランの核関連施設を攻撃しました。その結果、イランの核開発能力は大幅に低下しました。
トランプ氏はイランとの交渉によって、核開発を阻止する可能性を探索しました。しかし、核開発をイスラム革命国家の存立基盤に据えるイランは妥協しませんでした。そこで、トランプ氏は2月28日にイランの最高指導者と国家指導部を殺害しました。イスラム革命体制を完全に打破しない限り、自分が神から与えられたイランの核開発阻止は実現出来ないという信仰的確信に基づく戦略です。
従って、トランプ氏がイランと一時的に停戦に応じることはあっても、すぐに何らかの口実を見出して、戦闘を再開します。こうなるとトランプ氏が倒れるか、イランのイスラム革命体制が崩壊するか、イランが国際的に検証可能な形で核開発を放棄するかのいずれかの可能性しか残りません。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。