めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
――5月14、15日に北京で行われた米中首脳会談をどう評価しますか?
佐藤:米中関係が質的に改善しました。習近平中国国家主席の認識は、1.中米の共通点は、相違点を上回る、2.中米関係の安定は世界に利益をもたらす、3.中米はパートナーとなり、共存し、新時代における大国間の正しい付き合いの道を歩むべきだ、というものです。習近平氏が指摘した以上の3点は社交辞令ではなく、中国の本音と私は見ています。
――米中首脳は「建設的戦略安定関係」について合意しました。これをどう解釈すればいいでしょうか。
佐藤:建設的戦略安定関係は、国際関係で共通の利益を実現するために軍事的に協力する同盟関係ではありませんが、二国間関係のみならず第三国との関係においても米中が極力協力するという意味です。19世紀に帝国主義国間で締結された協商(entente)に似ています。従来の「米中対決」という枠組みとは異なる概念です。
――台湾問題はどうなるでしょうか?
佐藤:
(習近平氏は)また、協力を強調する一方、台湾問題への対応で米国に「最大限の慎重さ」を求めた。「対応を誤れば、両国は衝突し、さらには紛争に陥る恐れがあり、米中関係全体を極めて危険な状況に追い込みかねない」と警告した(5月14日『ロイター通信』日本語版)
ということです。習近平氏の発言に対して、トランプ氏は激しい反発はしなかったようです。台湾問題で米中間に見解の相違があっても、それにより二国間関係が決定的に悪化するという状態は避けるという意味です。日本としても、今回の米中首脳会談による構造変化を考慮して、対中国政策の再調整が必要になります。
――今後日本は、どのような外交を展開したらよいのでしょうか。
佐藤:トランプ氏の外交の特徴は、習近平氏、ロシアのプーチン大統領らとの良好な人間的信頼関係を構築し、アメリカの国益を極大化するものです。今回の米中首脳会談でトランプ氏が民主主義、人権、法の支配等の価値観に関心がないことが明白になりました。5月15日の『朝日新聞』社説のようにトランプ氏に対して、国際法、法の支配といった戦後秩序の基盤を軽視する自国優先の取り引き外交という非難をしても、現実は何も変わりません。日本は国際秩序の変化に対応し、リアリズム外交を強化すべきです。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。