めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
──5月20日、北京で習近平中国国家主席がロシアのプーチン大統領と会談しました。
トランプ米大統領の訪中直後だったが、米国を念頭に「一方的な覇権主義が横行している」と非難するなど、一定の距離を置き、中ロの関係が揺るがないことを示した(5月20日『朝日新聞』デジタル版)
ということです。
5月14日に行われた習近平氏とトランプ米大統領の会談で、両首脳は、「建設的戦略安定関係」に合意しました。習近平氏は、トランプ氏、プーチン氏に対してそれぞれ異なることを述べ、どちらの味方でもあることを装う二枚舌外交を展開しているのではないでしょうか。
佐藤 違います。中ロの協商が成立したと見れば、事態を整合的に解釈することができます。協商(entente)とは、
外交用語として、対外事務の遂行や第三国からの軍事的侵略の際の協力など国際的な関係事項に関する特定国家間の協調提携関係をいう。(中略)同盟allianceのような武力的援助義務の規定をもたない弾力的な関係である(『世界大百科事典』平凡社、義井博氏執筆、ジャパンナレッジ版)
歴史的には、それまで敵対関係にあったフランスとイギリスが1904年、突如、合意した英仏協商の事例が興味深いです。歴史学者の木谷勤氏は英仏協商が成立した経緯についてこう指摘しています。
一九〇二年日英同盟の成立は、ロシアの同盟国フランスにも脅威となった。ヨーロッパで孤立することを恐れるフランスは、ロシアの極東での膨脹政策を憂慮しながらもなおロシアを見捨てることができなかったが、日露の間に戦争が起り、もしフランスがロシアを援助する場合、日英同盟第三条により、イギリスの参戦を招くこと必至であったので、英仏関係の改善が急務となった(木谷勤「8 第一次世界大戦前の国際対立」『岩波講座 世界歴史23 帝国主義時代II』岩波書店、1969年、214~215頁)
──米中ロが協商関係を構築したということでしょうか?
佐藤 私にはそう見えます。ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ問題、イラン危機、台湾問題などは、とりあえず脇に置いて、共存共栄体制を図っていくことに、トランプ氏も習近平氏もプーチン氏も利益を見出しているのです。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。