めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

──小泉進次郎防衛相は5月31日、シンガポールで開いたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で演説し、中国が日本の防衛力強化を「新型軍国主義」だと非難する主張に反論しました。

 

  (小泉氏は)「核兵器や戦略爆撃機を大量に保有している国がある」と提起した。どちらの兵器も持っていない日本が「新型軍国主義」だと呼ばれるのは「おかしいと思わないか」と問いかけた(5月31日『日本経済新聞』電子版)

 

ということですが、本件は今後の日中関係にどのような影響を与えるでしょうか。

佐藤:ここで興味深いのは、小泉氏が「核兵器や戦略爆撃機を大量に保有する国」という表現に留め、中国と名指ししなかったことです。外交の世界では、国名や首脳名を名指しするか否かで、批判の水準が異なってきます。小泉氏は名指しを避ければ、中国との対話の可能性を確保出来ると考えたのだと思います。

 

──小泉氏の配慮は効果をあげるでしょうか?

佐藤:残念ながら、あげないと思います。なぜなら中国の習近平・中国国家主席は、高市早苗政権と対話する意志を持っていないからです。今回の小泉氏による新型軍国主義への反論を「われわれが売った喧嘩に日本が乗ってきたな」と考えていると思います。

 去年11月の国会における台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁以降、中国共産党系シンクタンクは、日本に対する効果的な攻勢を研究し、新型軍国主義という新しい概念を作りました。今年1月に中国共産党機関紙『人民日報』がこの言葉を用いて日本を批判するようになってから、状況が質的に変化しています。

 中国は新型軍国主義の理論化を進めるとともに、この概念での対日批判の国際化を試みています。具体的には、高市政権の政策が、極東軍事裁判(東京裁判)で確定した第二次世界大戦後の秩序を根底から崩し、アジアの平和と安定を乱す危険な動きであるという認識を、国際社会、とりわけアジア諸国に植え付けようとしています。

 

──中国の思惑通りになりますか?

佐藤:なりません。東南アジア諸国では中国に対する警戒感が強いからです。

 他方、戦時中の日本軍の政策に関しては、東南アジアの人々は不当な侵略だったという認識を持っています。日本の与党の国会議員が「大東亜戦争は正義の戦争だった」というような姿勢を示すと、東南アジアが日本から離れていきます。

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。