めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
──米イランの停戦合意が6月15日に成立し、19日に調印式がスイスで行われました。今後の情勢はどうなるでしょうか。
佐藤:報道を総合すると、ホルムズ海峡の開放、レバノンを含む全地域での戦闘中止に関して両国の発表の内容は一致しているようです。他方、最大懸案であるイランの核開発問題については、双方の見解が収斂していません。
6月14日、米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで
トランプ氏はイランがウラン濃縮活動を停止する期間については交渉中とした上で、15年間の停止で合意する可能性を示唆した。停止期間が終わった後も軍事利用できない低濃縮ウランの製造に限られるとの考えを示した(6月15日『共同通信』)
ということです。
イランは強気です。6月14日にイラン国家安全保障最高評議会が発表した声明には、こんな表現があります。
殉教した先代最高指導者の指導の下、イラン・イスラム共和国は、アメリカ・シオニストの敵に対する優位性を完結し、現政権の最高指導部の措置、全国民諸兄の支持、そしてイスラム戦士諸君のたゆまぬ努力の下、数ヶ月に及ぶ困難かつ集中的な交渉を経て、当評議会の決議に基づき14日日曜夜、イランとアメリカ合衆国間の戦争終結に関する覚書(イスラマバードでの交渉)の最終文書をまとめた(6月15日『Pars Today』日本語版)
──イラン優位の停戦なのでしょうか。
佐藤:違います。どうもイランの指導部には、トランプ米大統領の内在的論理が理解出来ていないようです。トランプ氏はイランの核開発能力を根絶することが神から与えられた使命と確信しているというのが私の見方です。
──停戦は履行されないのでしょうか?
佐藤:その可能性も排除されないと思います。今回の停戦協定が成立しても、それは1939年の独ソ不可侵協定のような偽りの約束です。ヒトラーは、この協定を締結した時点から、いずれかのタイミングでソ連を攻撃する腹だったのです。
今回、米イラン間で停戦が成立したとしても、それが恒久的性格を帯びる保障はありません。トランプ氏は、イランの核開発能力を完全に破壊することを諦めていません。イスラエルもトランプ氏のこの方針を理解しています。「約束をしたが、それを守るとは約束していない」というルールの世界で、国際政治ゲームが展開されているのです。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。