めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

──米イランの最終的な戦闘終結合意を目指す協議が6月21日、スイスで始まりました。米イランの間で同月17日に結ばれた覚書に基づく今回の協議は、60日間の期限で最終合意を達成する予定ですが、難航しているようですね。

佐藤:その通りです。

  トランプ氏は協議開始と同じころ、「イランは、レバノンで多額の報酬を得ている代理勢力が騒動を起こすのをやめさせなければならない。さもなければ、我々は再びイランに強烈な打撃を与える」とSNSに投稿した。イスラエルとの間で戦闘が続く、レバノンの親イラン武装組織ヒズボラが念頭にあるとみられる。

トランプ氏はまた、FOXニュースの記者の電話取材に応じ、イランがホルムズ海峡を再び封鎖すれば、「国がなくなる」と発言。同局によると、場合によっては米国がホルムズ海峡を占領することも示唆したという(6月22日『朝日新聞』デジタル)

 状況は厳しいです。

 

──イランはトランプ氏の発言に激しく反発しています。

佐藤:トランプ氏はイランを力で押し切るつもりなのだと思います。覚書には

  米国とイランは互いの主権と領土保全を尊重し、互いの内政への干渉を控えると約束する(6月18日『朝日新聞』デジタル)

と記されています。主権と領土の保全、内政不干渉の約束は、米イランが外交関係を正常化する際の条件で、停戦条約には必要のない過剰な内容です。過剰な内容が盛り込まれている条約は、一般論として履行が難しいです。

 核開発に関する覚書の内容も奇妙です。アメリカは、インテリジェンスによる情報収集と分析を踏まえ、イランが核開発を行っていると確信しています。にもかかわらず、「イランは核兵器の調達や開発をしないことを再確認する」というイランの虚偽説明を覚書に記していること自体があり得ないことです。

 アメリカはこの覚書が、停戦とホルムズ海峡通航を確保するための便宜的なものに過ぎないと割り切っているので、「イランの嘘」を看過していると解釈するのが妥当です。そもそも最終合意が成立しなければ、この項に定められた濃縮ウランの希釈処理も、核開発問題に関する協議も行われないことになります。

 アメリカもイランも「この覚書が遵守されることはないだろう」と思っていますが、当面の利益のために締結したに過ぎないのです。いわば、偽りの覚書です。

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。