めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
──マニラで7月21日、茂木敏充外相とロシアのラヴロフ外相が短時間、言葉を交わしました。両国の外相が接触するのはウクライナ侵攻以降初めてです。どう評価しますか?
佐藤:私は肯定的に評価しています。この接触は、高市早苗首相の了解の下で行われたと見ています。日本とロシアが隣国であるという地理的条件を変えることはできません。ウクライナ問題で日ロの立場が異なっているからといって、対話ができない理由にはなりません。
──外務省が積極的に動いたのですか?
佐藤:そうではありません。今回の接触が実現する過程で、鈴木宗男衆議院議員(自民党)が重要な役割を果たしました。鈴木氏は、ASEAN関連外相会議で外相レベルの接触を再開させる用意があるというロシア側のメッセージを、高市首相と茂木外相、さらに外務官僚に伝えました。
しかし、外務省の事務方は「ロシアと勝負するタイミングは今ではない」と消極的でした。そこで鈴木氏は、茂木外相に直接働きかけることにしました。
7月17日(金)16時過ぎ、外務省大臣室で茂木外相にラヴロフ外相とは短時間でも対話をした方がよいと進言したが、実現できたことにホッとした。今回の会談を機に日ロ関係が改善されていくものと期待してやまない。(7月23日『鈴木宗男オフィシャルブログ』)
こうしてマニラにおける日ロ外相の接触が実現したのです。
ロシア側は、アメリカはこの戦争から手を引き始めている一方で、ヨーロッパ諸国、とりわけドイツがウクライナへの軍事・経済両面での支援を強化し、戦争を長期化させようとしていると見ています。その状況の下で、日本が西側連合の一員としてウクライナを非軍事分野で支援するという基本姿勢は今後も変わらないと冷静に分析しています。それでも、日本との関係を安定化させることはロシアの国益にかなうと判断しているのです。これがロシア外交のリアリズムです。
日本側としても、ロシアが隣国であるという地理的条件を変えることはできません。ロシアとの関係を安定化させることは日本の国益に資します。とりわけロシアからエネルギーを輸入することは、日本のエネルギー安全保障の観点からも重要です。こうした国益が一致するからこそ、両国の間に外交上の取引が成立するのです。
対立する国家との間にも共通の利益を見いだし、戦争を回避するための仕組みを構築することこそ、リアリズム外交の本質です。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。