めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。
──日本では大きく報道されていませんが、北朝鮮で深刻な政治事件が発生したようです。
佐藤:北朝鮮の体制運営にかかわる重大な政治事件である可能性が高いです。7月10日、平壌で金正恩朝鮮労働党総書記が出席する党・政・軍連合会議が開かれました。
党第9回大会は、社会主義建設の全般で一致した行動の統一を保障し、強い綱紀を確立することを第一の時代の要求とし、共和国の国法は朝鮮革命の根幹を破壊し、社会主義国家制度を蝕ませる権勢、特権、不正腐敗行為に断固たる闘争の矛先を向けている。
人民軍総政治局の前組織副局長パク・フィチョルとその追従者の特大型不正腐敗行為を暴く資料通報が行われた(7月11日『朝鮮中央通信』日本語版)
──朝鮮人民軍総政治局組織局とは、どのような部署なのですか?
佐藤:軍幹部の人事や忠誠心の審査、昇進管理などを担当する、日本の行政組織にたとえれば人事局と監察局の機能を併せ持つ、強力な権限を有する部署です。そのナンバー・ツーに当たる人物が「特大型不正腐敗行為」を行ったというのは尋常な事態ではありません。
朝鮮中央通信の記事には「党の唯一的軍指導体系を阻害した」という表現があります。これは、金正恩氏を最高指導者とする軍の指揮命令系統とは別に、パク・フィチョル氏が独自の人的ネットワークや権力基盤を形成していたことを意味します。
人民軍総政治局の最も重要な任務の一つは、軍内に金正恩氏の統制に従わない派閥が形成されないよう徹底して監視することです。その監視部門自体が独自の勢力を形成していたとすれば、事態は極めて深刻です。
──この事件は外交に影響を与えるでしょうか?
佐藤:パク・フィチョル事件を契機として、北朝鮮では党・軍・政府全体を対象とする大規模な組織点検と粛清が進められているとみられます。このような内部統制が最優先課題となる間は、北朝鮮の外交活動は停滞する可能性が高いでしょう。
トランプ米大統領の関心は現在、ウクライナから東アジアへと移りつつあります。この状況で米朝関係がどのように推移するかは、沖縄の米軍基地再編問題を考える上でも重要な変数です。北朝鮮の内政の変化は米朝関係を左右し、その結果、アメリカの対日政策にも影響を及ぼす可能性があります。
佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。