めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

──福島大学を「国公立の最下位」などと扱った動画が問題になりました。

佐藤:この問題は、単に不謹慎なユーチューバーが大学を侮辱したというだけではありません。日本社会には、大学入試の偏差値をその人の知性や価値と結びつけて考える癖があります。しかし、18歳前後の大学入試でどこに合格したかは、「学歴」ではなく「入学歴」です。高校までに身につけた知識や受験勉強への適応力を、その時点で測った結果にすぎません。

 本来の「学歴」とは、大学に入ってから何を学び、どのような知識や思考力を身につけたかという履歴です。難関大学に入って4年間ほとんど勉強しない学生もいます。逆に、入学時の偏差値が高くなくても、大学で優れた教師や友人に出会い、真面目に勉強して伸びる人もいます。

 

──偏差値そのものを否定する必要はありませんか?

佐藤:偏差値は、入学試験で受験生の相対的位置を見るには便利な道具です。しかし、人間の知性、人格、将来性まで測れる万能の物差しではありません。私は同志社大学神学部の出身ですが、1979年当時は入学偏差値競争から外れた「番外地」のようなところでした(今は経済学部や文学部よりも合格最低点が高い人気学部になっています)。それでも私が外交官になってから、仕事で萎縮したことはありません。

 外務省で問われるのは、ロシア語ならロシア語をどれだけ使いこなし、要人と人脈を作り、機微に触れる情報を取り、日本の国益に結びつけられるかです。外国で仕事をすれば、日本の大学の偏差値など何の意味も持ちません。

 

──福島大学の大学生を含む全国の大学生や高校生に何を伝えたいですか?

佐藤:18歳時点の「入学歴」に、自分の価値を縛られないことです。大学に入ってから何を学ぶかで、その後の人生は大きく変わります。ほんとうの「学歴」を大学や大学院で身に付けることが重要です。福島大学で原発事故、放射性物質、農業復興などを真剣に研究している学生がいるなら、その学びこそ立派な「学歴」です。出身大学で固まる人より、第一線で仕事をして登用される人に最後に問われるのは、能力と人柄です。偏差値を笑いの材料にして他人の尊厳を傷つけるより、自分が今日何を学んだかを考える方がはるかに大切です。福島大学の学生、教職員の皆さんには、中傷にめげず頑張ってほしいと思います。

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。