めまぐるしい変化を見せる国際情勢において、その変化のスピードは日々増していくばかり。いま、世界ではいったい何が起きているのか。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が解説する。

──今回の米海兵隊員の強盗殺人容疑事件を、どう見ていますか?

佐藤:まず、容疑者は逮捕段階であり、有罪が確定したわけではありません。そこは厳密に区別する必要があります。いずれにせよ、普天間飛行場所属の米海兵隊員が強盗殺人容疑で逮捕された事実が沖縄社会に与えた衝撃は大きいと言えます。(※)

 私が注目しているのは、沖縄紙の報道姿勢です。全国紙では「米兵による重大事件」がニュースの中心になりますが、琉球新報など沖縄紙は事件を米軍基地を抱える沖縄社会で起きた出来事として捉え、県庁、県議会、日米地位協定、海兵隊の駐留問題まで追っています。事件を「点」ではなく、基地問題という長い「線」の中に置いているのです。

 10月5日の抗議では、古謝玄太知事が「激しい怒り」を表明しましたが、在沖米軍トップは遺族への哀悼を示したものの、謝罪はしませんでした。

 

──日米地位協定はどう考えるべきですか?

佐藤:今回は沖縄県警が容疑者の身柄を確保しています。したがって、「地位協定があるため日本側が逮捕できない事件」ではありません。起訴前の身柄引き渡しが主要争点でもありません。ただし、だから地位協定や米軍駐留の制度問題が無関係になるわけではありません。

 米軍人の事件・事故情報が県や自治体にどう伝えられるのか、再発防止策が本当に機能しているのか、基地集中が地域社会にどんな負担を与えているのかは別の問題です。過去にも綱紀粛正や教育の徹底は繰り返し表明されてきました。それでも重大事件が起きた以上、実態について検証すべきです。

 

──古謝知事と高市政権には何が問われますか?

佐藤:古謝知事は政府との協調と経済振興を掲げて当選しました。しかし、「政府との協調」と「政府への従属」は違います。政府に近いからこそ、官邸、防衛省、外務省、米側に対して、沖縄の利益を強く要求できるかが問われます。高市政権も、形式的な「遺憾」や「綱紀粛正」で済ませてはいけません。何が実施され、何が機能しなかったのかを検証し、具体的な再発防止策を沖縄側に説明する必要があります。

 沖縄紙は、基地問題を一過性の外交ニュースではなく、日々の生活と安全の問題として追っています。全国紙と沖縄紙の双方を読むことで、事件が日本政府や日米関係でどう位置づけられ、沖縄社会でどう受け止められているかが立体的に見えてきます。

(※)10月25日、那覇地検は同容疑者を強盗殺人の罪で起訴

佐藤優(さとう・まさる)
元外務省主任分析官、作家。同志社大学大学院神学研究科修士課程修了後、外務省入省。95年より外務省国際情報局分析第一課勤務。対ロシア外交の最前線で活躍し、「外務省のラスプーチン」の異名をとる。2002年5月に背任容疑で逮捕され、09年に最高裁で有罪判決が確定し失職。著書多数。