現在、日本列島が未曽有の事態に見舞われている。クマによる被害が、過去最悪のペースで増加しているのだ。

 東北地方ではツキノワグマが大量に出没し、2023年4月~9月末までに北海道に生息するヒグマやツキノワグマによる人身被害に遭った人数は全国で109人。環境省が記録する07年度以降最多だった20年度の158人を超える過去最悪ペースで増加中だという。

 その影響は、世界遺産・白神山地の麓に広がり、マタギが生活した村として知られる青森県・西目屋村の観光業や農業にまで及んでいる――。

「9月末までのクマによる被害人数は、秋田28人、岩手27人、福島13人、青森7人など東北地方での被害が7割以上。記録的な猛暑の影響で、ドングリやブナといった山にあるはずのクマのエサが今年は凶作。人里に下りてエサを探すだけでなく、山に入ってきた人までもエサ探しのライバルと見なしてしまう。

 10月17日には富山県富山市江本の住宅街の住宅の敷地内で女性がクマに襲われ死亡する事故が起きました。現場は富山駅から南にわずか8キロの距離。その2日後の19日には、岩手県八幡平市の山林でキノコ採り中の女性がクマに襲われ亡くなる事故も起きている。例年にないクマの凶暴化が懸念されています」(夕刊紙デスク)

 クマ被害増加の背景にあるのは、エサ不足だけではない。森林総合研究所・東北支社の動物生態チーム長・大西尚樹氏は、「人間が住む地域とクマが暮らす場所が隣接するようになった」という歴史を指摘する。

 本来、クマは人の気配があるところにはなかなか侵入して来ない生き物だ。ただ、かつてはクマがいる原生林と人間が住む集落との間に、人が農地や園芸、林業などに利用する「里山」があった。

 しかし高齢化や過疎化が進んだ地方では里山が荒地化。人の居住地域とクマ生息地の間にあった“緩衝帯”がなくなり、一気にクマが人の住む地域まで下りて来てしまう事象が多発しているというのだ。

 ブナの原生林が広範囲に広がる白神山地を有する青森県西目屋村でも、23年のクマによる被害は甚大だ。村役場産業課の担当者によれば、10月20日時点で捕獲したクマの数は「63頭」。

「22年が7頭だったので、今年は非常に多い。もちろん年ごとに上下はあるんですけど、多くて30頭ほど。ですので、その倍近くの件数です。道路沿いや、家の前の水路、畑の中など、日常生活の中で目撃したという情報が増えている印象です」(村役場の担当者)