■クマ肉冷凍庫はパンパン、りんご農地は丸裸に……
青森県西目屋村には1000年以上も前から、狩猟を生業として生活するマタギと呼ばれる人々がいた。クマはある意味“身近”な存在だ。
捕獲したクマは殺処分して山地に埋設、あるいは自家消費に回されていたが、近年では村をあげてクマ肉を観光客向けの料理として積極活用してきた。
20年11月、村は食肉加工施設「ジビエ工房白神」をオープン。21年には「道の駅津軽白神」でクマ肉料理を提供し、22年4月からはお土産用のレトルト商品「白神クマカレー」と「白神クマ丼」の発売を開始した。
前出の村役場産業課の担当者によれば、村が仕掛けたオリは全部で15個。23年は、これまでにそのオリで捕獲したクマ50頭が工房に搬入されている。しかし、連日のクマ捕獲により工房の保存用冷凍庫はパンパン。すっかりキャパシティオーバーだという。
「冷凍庫にクマ肉が入り切らないので、早め早めに観光施設のほうに卸すといった対応をするしかないのが実情です」(前出の村役場担当者)
現在は冷凍クマ肉も「道の駅津軽白神」で試験販売しているというが、「ただ、クマは出ないことに越したことはないですから」と話す担当者。深刻なのは農作物への被害だという。
「クマは普通にりんごの木に登って実を食べるので、枝を折ったり、大切なりんごの実を落としたり……。これから10月、11月と収穫は最盛期を迎えるのに、村内全域で“食い荒らされた”りんご農地が見られる状況ですね」(前同)
りんごが赤く熟す前に、すべて食い尽くされたと嘆く声も多いという。枝が折られたとなれば、来年以降の耕作にも影響が出るのは必至だ。オリ以外の被害防止策はあるのだろうか。
「村で雇用した3人の農地巡視員の方たちにりんご園を見回ってもらっているほか、いちばん有効なのは農園内に電気柵を設置することです。電気柵が畑をグルリと囲んでいれば、クマも入れませんからね。ただ設置にはどうしても費用がかかる。農家さんにとっては大きな負担になり、なかなか動けない方が多いのも現実です」(同)
りんご園を舞台に繰り広げられるクマと人間の戦い。12月1日には北海道羅臼町に設置してあるカメラの一つがヒグマの親子の姿をとらえている。通常であれば冬眠しているはずのこの季節。クマと人間の共存関係をいま一度考え直すタイミングが来ているのかもしれない。
(2023年10月21日公開)