■クジラ肉の価格が牛肉並みに高い理由

 国際社会からの理解が得にくい日本の捕鯨文化。活動をめぐっては、環境保護団体『シーシェパード』が過激な抗議行動を繰り返し、捕鯨発祥の地である和歌山県を描いた映画『ザ・コーブ 』(2009年)などでも日本人が悪者として描かれている。

 こうした国際的な世論に真っ向から反論した映画『ビハインド・ザ・コーヴ〜捕鯨問題の謎に迫る〜』(15年)がNetflixでも配信され、最新作『鯨のレストラン』(23年)も話題を呼んだ映画監督の八木景子さんに、日本の商業捕鯨の今後について話を聞いた。

「持続可能な範囲であれば、日本はもっとクジラを捕るべきだと思います。ナガスクジラだけでなく、もっと捕る種類や、捕獲頭数を増やすべきです。クジラ資源が多い南氷洋(南極海)などでも捕鯨できるようになることを望んでいます。そのためにも、国際世論を味方につけるよう、映像でクジラ食の魅力とクジラ資源が多いことを伝えています」(八木監督)

 日本で現在、行なわれている商業捕鯨は、日本の領海とEEZ(排他的経済水域)内のみ。捕獲量も、IWCを脱退したにも関わらず、IWCが定める非常に厳しい捕獲計算に従っている。

「捕獲量で言えば今は底辺。だからクジラ肉の値段も高いんです。捕獲量の計算式も(クジラの個体数の)“増加量”に基づいて、持続可能な範囲でマックスまで捕れば、価格も下がってクジラ肉が食卓に並びやすくなるはずです。ただ、国際会議での解決は難しい。(反捕鯨団体などの)映像によって歪められた分、映像によって是正し、理解を広めようとしているんです」(前同)

 八木監督は、これまでの映画作品などで「クジラの過度な保護が原因で、魚が大量に食べられ(全人類が食する3~5倍の魚をクジラが消費)、生態系が崩れている」と主張。また、本来であればクジラ肉は自給自足できるはずなのに、輸入依存になっているのは「おかしい」と指摘する。

「日本全体の食糧問題と同じく、クジラも輸入依存になっています。国産食材を重要視しないと、非常時の食料確保が難しくもなる。今あるタンパク資源の活用に目を向けるべきです。食料自給率の低い我が国にとって、クジラの問題を解決すれば、他の分野においても輸入依存型から脱出できるヒントになるかもしれません」(同)

 一時期に比べ、捕鯨のハードルは下がっているようだが、それと消費量の拡大はすぐには結びつきそうにない。生まれたときから牛肉などを食べ慣れているZ世代が、わざわざクジラ料理を選ぶとは考えにくいからだ。

 日本で、文化として長く親しまれてきた捕鯨活動。商業捕鯨は再開したものの、再びクジラ肉が家庭料理として受け入れられる日は来るのだろうか。

八木景子
1967年生。映画監督。
2015年に『ビハインド・ザ・コーヴ ~捕鯨問題の謎に迫る~』を製作し監督デビュー。同作品は 2018年2月17日に反捕鯨国の英国ロンドンで開催されたロンドン・フィルムメーカー国際映画祭で長編ドキュメンタリーベスト監督賞を受賞し、話題を呼んだ。
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