■女性来場者が7割以上、人気の理由は考察要素

 弊サイト記者が『行方不明展』へ足を運んだ際には、自身のSNSにアップするためか、展示物をスマートフォンで熱心に撮影する来場者の姿も。ホラーと聞けば首筋が凍る様な恐怖体験を思い浮かべてしまうものだが、記者が訪れたタイミングでは会場内は女性来場者が7割ほどで、どこか柔らかな雰囲気も漂う。

「モキュメンタリーホラー好きの人にだけ向けた展示会を行なっても、ファン層の拡大にはつながりません。そのため、展示会場内には小高い山を設置したり、電話ボックスを置いてみたりと“映え要素”もつけ足すことで、モキュメンタリーホラー初心者の方でも展覧会を楽しめる様に工夫しました」(前出の頓花さん)

会場内に置かれた不気味な電話ボックス ※撮影/編集部

 しかし、展覧会で表現されているのは通常であれば10万字超えの小説や、2時間以上はある映画などを通じて描かれるモキュメンタリーホラーの世界観。本来であれば壮大な物語となる世界を、展示物とわずかばかりの説明書きだけで、来場者に理解させられるものなのだろうか。

「モキュメンタリーホラーの魅力は結末を語りきらないこと。これは小説でも映画でも同じです。読者や視聴者の“考察結果”によって結末が変わる。そんなモキュメンタリーホラーの世界だからこそ展示物と説明書きだけで、物語の世界観を表現できると考えました。しょせんは展示でしょう、と考えるのではなく、来場者の方には真剣にホラー“ごっこ”遊びを楽しんでもらえればと思います」(前同)

 また、モキュメンタリーホラーが持つ“考察要素”も多くの来場者を展示会へと惹きつけた1つの魅力なのではと、頓花さんは指摘する。

「たとえば、会場に来た人がSNS上で『行方不明展』の考察を書き込む。それを読むことで、別の来場者の方は『行方不明展』の世界観を別の角度からも楽しめるわけです。謎が謎を呼ぶ、考察が考察を呼ぶ、そんな特徴を持ったモキュメンタリーの世界だからこその展示会を楽しんでもらいたい」(同)

考察が考察を呼ぶ行方不明展 ※撮影/編集部

 現在、モキュメンタリーホラーファンの間で注目を集める小説『フェイクドキュメンタリーQ』の表紙にも“この人、行方不明”と記載されており、“行方不明”という言葉がモキュメンタリーホラーファンの間で1つのキーワードとなっていることが伺える。“リアリティーのあるホラー”を展示会場で楽しみたいという人に向けて頓花さんが話す。

「あくまでもフィクションの世界観。自分の生活の延長線上にある1つの作り物の世界として、肩の力を抜いて楽しんでもらえればと思います」(同)

 猛暑が続く日本列島。背筋が凍る瞬間もあるモキュメンタリーホラーの世界を、冷房が効いた空間で楽しんでみては。

頓花聖太郎
1981年兵庫県生まれ。元々はグラフィックデザイナー。2011年関西の制作会社にアートディレクターとして入社。大好きなホラーを仕事にすべく2015年、株式会社闇を設立。
株式会社闇と作家の梨が手掛ける人気コンテンツに『つねにすでに』(https://always-already.net/)がある。