■ウェイボーでの反応は――

 中国国内では近年経済状況が悪化。この状況が、反日感情の高まりに影響しているのではないかと、前出の西谷氏は指摘する。

「中国では現在、雇用が不安定。特に16歳〜24歳の若者の失業率は公表が始まった2018年から右肩上がりで、23年6月には21.3%もの高い数字を記録。日本4.2%やアメリカの7.5%と比較しても主要国の中で飛び抜けています。

 過去何度も緊張が走った日中関係ですが、邦人が現地で襲われるような事件が頻発するほどの事態ではなかった。日中間の貿易額も減少傾向にありますし、両国の間で経済的な関係が薄まりつつあることも中国国内での反日意識の高まりにつながっているように思われます」(西谷氏)

 中国国内では今回の事件はどの様に捉えられているのか。

「6億人の利用者がいるとされる中国のSNSウェイボーでは、“こいつ(犯人男性)こそ国の恥だ”、“小学生を殺すのは許せない”といった意見が大半です。中には、“かつて日本軍が中国にしたのと同じことだ”といった書き込みもありますが、半数以上のネットユーザーは殺人事件にまで発展した事態を重く見ています」(前同)

 自身も1年ほど前に事件が起きた深センを訪ねたという西谷氏。現地では反日感情の高まりを感じることはあるのだろうか。

「物を買ったりタクシーに乗ったりする分には差別意識を感じることはありません。あくまでも“お客さん”として他の中国人と同じように扱われていると感じます」(同)

 6月、9月と起きた中国国内での日本人襲撃事件。今後、状況は改善へ向かうのだろうか。

「今回の事件は日本人学校の前で起きています。学校に通うのは未成年で、力も弱い日本人の子どもばかり。襲撃犯からしたら日本人を意図的に狙いやすいスポットでもあります。事態は深刻と見た方がよいでしょう」(同)

 パナソニックなど一部の企業ではすでに深センで働く駐在員やその家族へ「帰国命令」を出したという。事態を打開する糸口は見えない。

西谷格
1981年、神奈川県生まれ。ノンフィクションライター。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。主な著書に、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP研究所)など。