■このままじゃマズい…生き残りをかけたリブランディング戦略

 このようにして店舗拡大に成功した『どさん子』だが、盛者必衰はラーメンの世界でも当てはまること。80年代に入ると、“とんこつブーム”が巻き起こった。そして全国にコンビニが急増したことにより外食の需要が変わったことも、少なからず影響を受けたという。

 現在、ラーメン店は全国に約3万軒あるといわれている。しかし、当時はまだ焼き肉などのご馳走と似たような見方をされることが多かった。それがカップラーメンの普及なども手伝って日常食となり、競合他社が数多く生まれることになる。

 だが店舗数が減少した最大の理由について、若林氏は次のように分析する。

「後継者不足でしょうね。オーナーが全体的にご高齢になり、その店舗を引き継ぐ方がいないんです。そうやって独自のスタイルで軌道に乗っていた加盟店が次々と閉店していく中で、本部が時代に合わせた変革をできなかったことが反省点です」

 今では真相を聞くことはかなわないが、『どさん娘』と『どさん子大将』が撤退した背景にもこうした事情があったのだろう。

 だが、『どさん子』は違った。

「このままじゃマズいということで、2014年にリブランディングを敢行したんです。50年続けている基本の味噌ラーメン(元祖どさん子味噌ラーメン)はそのままにしつつも、新しい方に向けてメニューも練り直しました。客層的には真逆にあたる『博多一風堂』を運営する『力の源ホールディングス』さんと共同開発し、お手伝いしていただいたことが大きかったですね」

 確かに『どさん子』のホームページを覗いてみると、味噌ラーメン系だけでも「赤練」「金練」「白練」「熟練」など多彩なメニューが並んでいる。伝統にあぐらをかくことなく、新たなチャレンジを仕掛けているのは明確だ。旧来からある店舗から差別化したリブランド店では、麺やスープだけでなくロゴのフォントまで含めてイチから再構築したという。

「とはいえ、まだまだV字を果たしたとは言えない状況です。今後のビジョンとしては、まずリブランド店を増やしたい。現状は10数店舗しかないので、FC事業として、せめて100店舗は欲しいですね」

 それと同時に、今までの『どさん子』ファンの方も大切にしていきたいと、若林氏は言う。

「50年続く昔ながらの味噌ラーメンの調理方法は変えずに、今の新しい世代、トレンドに向けた新生『どさん子』を作っていきたいんです。『どさん子』はコンセプトに“あの味 味噌味” という言葉を掲げています。かつて食べたことがある人も、今まで食べたことがなかった人も、“この味が味噌ラーメンなんだな”と認識していただけたら嬉しいですね。王道と先進性をブレンドしながら、今後もチャレンジし続けていきます」

 『どさん子』が味噌ラーメン三国志の覇者となった最大の理由は、そのパイオニア精神と自己変革を恐れないチャレンジ精神を併せ持っていたことにあるのだろう。

 創業64年目を迎えてもなお、『どさん子』の飽くなき挑戦は続く。