■岸優太と雪井炬太郎が融合する芝居
岸は、せりふのないところでも炬太郎として存在している。細かいところなのだが、エリーがロマネコンティを持参して遊びに来たときのことだ。
エリーと天が、前世についての会話を2人だけで進めていくのだが、この間、炬太郎にはせりふがない。だけど、小さく相槌を打ちながら、たこ焼きを作っている。たこ焼きのピックがカチカチと小さな音を立てているのが、2人の会話の相槌に感じられるし、パクッと1個食べたのは素の岸のように見えたりする。
その直後、天が「エリーさん」と言ったことで、“様”でないことにビクつくのだ。この、聞いていないようで、ちゃんと聞いている芝居がとてもいい。炬太郎の中に岸がいて、だけど、炬太郎がそこに存在していると感じられるシーンだ。
また、炬太郎は大切なことはメールや電話ではなく、ちゃんと顔を見て思いを伝える誠実さがある。天の片思いの相手が自分だと知ったとき、どう向き合うべきかじっくり考えていた。
そして、「犬とか人とか、もうそんなの関係なく。家族でも恋人でも友だちでもなく、天。天を大切に思っている」。自分の中で葛藤していた思いをぜんぶ包み込み、天が大事だということに変わりはないと結論づけて、直接伝えた。仕事を休むのも出社した社長に直訴して了解を得ていたし、前カノに借りたお金を返すときも、振込みではなく手渡しで返済をしていた。
不器用で嘘がつけなくて、芯はまじめな炬太郎だったらこうするだろうという理解が、岸の中で生きている。だから、せりふがないシーンでも炬太郎がそこに存在しているし、大切なことは電話やメールで済ませない人柄にブレがないのだ。演じている岸にも通じているわけだから、炬太郎という人物にじわじわと愛着を感じてしまうのも必然と言えるだろう。(文・青石 爽)