■存分に楽しみたい松村北斗

 たしかに本作の脚本と演出には、真戸原(松村)の人物像に一貫性がない。肯定的に見れば、初期のキャラはあくまで表面上のことで、これが本当の真戸原優だということかもしれない。ただ、その設定ならば、思い悩む性格が瀬奈(川口)と出会うことで変わっていく姿を視聴者は見たいだろう。恋愛ドラマをうたう以上、気持ちや人間性の変化を描くのが本来なのではないだろうか。

 しかも、黙って姿を消すという真戸原の去り方が、かつて瀬奈にトラウマを植えつけた宇井(田中圭/40)の去り方に重なってしまっているという悪手。次回は、これで瀬奈のトラウマが蘇って、8年前と同じように部屋へ閉じこもり、そこに宇井が再接近してくるという、序盤で見たような展開が繰り返される無限ループ状態に。結局、なにも変わることなく、スタート地点に戻ってしまったのだ。

 ただ、理不尽な展開をよそに、実の母との不幸なトラブルを抱え、思い悩む松村の演技が絶品だったことは間違いない。これまでの出演作では見られなかった、ポジティブな行動派の松村も新鮮でよかったが、相手のことを考えるあまり不幸を重ねてしまうつらい姿は、不自然な脚本への不満を吹き飛ばすほど似合うのだ。

 X上でも、《松村北斗をかわいそうな目に遭わせたい大人が多すぎる。薄幸美人枠なのは分かるけどここまで薄幸にしろとは言ってない》という声があったが、ひょっとすると、制作陣が明るくポジティブな北斗と薄幸美人な北斗の両方を見せたいあまり、不自然な展開になっているのかもしれない。そうであるなら、本作の見方も多少、変わってくるだろう。なにしろ松村北斗のフルコースを楽しめるのだから。

 第8話では、真戸原の親友・安田(戸塚純貴/32)が瀬奈の家を訪ね、真戸原が去って行った本当の理由を語るらしく、いろいろな誤解を解くキーマンになりそうだ。毒母の呪縛から解放され、真戸原が再び笑う日が来るのか注目したい。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。