■緩急自在だった香取慎吾

 ドラマの構成に関しては、X上で《事件をまんまオマージュしたり現代社会の問題詰め込んだだけの説教臭いドラマはたくさんあるけど、このドラマは問題がちゃんとオリジナルのストーリーに落とし込まれてて、台詞にキャラクターの血が通ってるからちゃんと心に届くなあ》という指摘が。社会問題を扱うドラマにはどこかとってつけた印象のものが多いが本作には皆無で、しっかり家族と社会問題をリンクさせた脚本の勝利と言える。

 また、振れ幅の広い内容をうまく立ち回った香取慎吾の演技も良く、第10話でも、前半の空々しい演技が、最後の野上に本気で立ち向かうシーンを際立たせていた。21年の主演ドラマ『アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜』(テレビ東京系)は、内容、視聴率ともにパッとしなかったが、今後、香取への地上波連ドラのオファーが増えそう。そう思えるほど香取の演技と存在感は際立っていた。

 平均世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)が3~4%台を行き来して低迷するなど、不調に終わった原因は、前半のホームドラマと社会派のどっちつかずな感じもよくなかったのかもしれない。本作の狙いが見えてきたのは中盤以降で、そこから終盤へ一気に盛り上がったのだが、それでは遅かった。

 いよいよ最終回を迎える『日本一の最低男』。一平(香取)が配信で暴露した、長谷川(堺)による職員へのパワハラ動画や、再開発をめぐる地権者への嫌がらせを指示する動画が、選挙に大きく影響しそうだ。香取演じる一平が、どんな素晴らしい最低ぶりを見せてくれるのか注目したい。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。