■一見「独創的」に見えないデザインに込められた「メッセージ」
米澤氏のデザインしたトイレの全体像はシンプルで、一見、“独創的”な造形はないように見える。しかし、それこそが「次の時代につなげるデザイン」のカギを握る。
「一度作った建築物は、基本的に動かしたり変形させたりするのは難しいものです。でも今回のトイレのコンセプトは、言ってみれば“積み木”。子どもが積み木で遊ぶように、カラフルな直方体や三角柱を組み上げることで構築しています。接合部分はボルトで脱着できる仕組みなので運びやすく、次なる場では新たな形に組み替えることが可能です」
米澤氏は、「複雑で多様、変化の激しい時代において、建築が柔軟に対応できる仕組みを提案したかった」と言う。そんな想いがデザインに込められているそうだ。
「積み木をイメージした設計では、建築だって柔軟に動かせたり形を変えたりできるという自由さ、楽しさを想像して体験してほしいというメッセージを込めています。ブルー、イエロー、レッドといったシンプルなカラーは、経済性に配慮して極力既製品から選んでいますが、そうしたベーシックな色だからこそ、次なる組み合わせのバリエーションも楽しく考えやすいというメリットもあります」
個室はすべてウォッシュレットで、男性用、女性用、オールジェンダー、バリアフリーをバランスよく設けたという。いずれも2つのブロックを組み合わせて天井高を高くすることで空間を広くとり、換気・排熱はもちろん、屋根は半透明の素材で採光を意識するなど、室内の快適さにも配慮したという。構造面でこだわったのは、「強度」と「運搬性」に加えて「拡張性」。
「鉄骨の内側に外壁や屋根を入れることで、運搬時に外装部分が傷まない工夫をしています。個室と屋根部分はブロック単位でバラすことができるので、たとえばブルーの個室とレッドの個室を並べるとか、オールジェンダーの個室だけほしいなど、その場所に合わせて組み合わせることができます」
なお、『大阪・関西万博』においては施設・設備・什器の移築・リユースプロジェクト「万博サーキュラーマーケット ミャク市!」が始動しており、すでに消火器やスポットライトなど、さまざまな物品への入札が開催中。米澤氏の手掛けたトイレもこのマーケットで移設希望者を募っている。
同氏の挑戦する"組み替えられるデザイン”が、建築の未来をも変える一歩となっていくかもしれない。