日々、若者文化やトレンド事象を研究するトレンド現象ウォッチャーの戸田蒼氏が本サイトで現代のトレンドを徹底解説。今回注目したのは、若者の住宅事情。

 新生活をスタートさせる人が増える4月だが、若者の部屋選びに大きな変化が起きているという。

 入居率が99%を超える人気物件が「3畳ワンルーム」と聞けば、意外に思う人も多いでしょう。しかし今、そうした“狭くて古い”物件にこそ、若い世代の熱い注目が集まっています。

 都内の不動産業者に聞いてみると、昨今の若者たちの部屋選びの基準は“家賃や駅からの距離”“治安”“近くにコンビニがあるかどうか”といった利便性を挙げる声が目立つといいます。

 一方で、“広さ”や“築年数”は意外にも一番妥協しやすいポイントなのだとか。

 以前、放送された『めざましテレビ』(フジテレビ系)では、昭和の名曲『神田川』の歌詞にも出てくる「3畳一間」が都内で人気を呼んでいるそうで、新宿区にある居住面積約9平方メートルという超狭小のワンルームアパートが紹介されていました。

 この物件にはロフトがついているうえ、家賃はそのエリアの相場より2~3万円安い。そうした条件も重なり、入居率は驚異の99・9%。都心へのアクセスが良好で、コストパフォーマンスも高く、何よりもその“特徴”が現代の若者たちにとって魅力的に映っているとのことだ。

「築年数や広さよりも、個性や立地を重視する入居者が増えています。“ちょっと変わってるけど面白い”という物件ほど反応が良くなる傾向があるんですよ。ここ2~3年、3畳ワンルームの物件が増加し、ほぼ入居者で埋まっている状況です。昔の5~6畳の下宿タイプはバスとトイレが共同でしたが、今は部屋に備え付けられていて、水回りが快適になったことも大きいと思います。

 特に都心部では、家賃とアクセスのバランスを最重要視する層が多く、そこにレトロさやSNS映えする要素が加われば、かなりの確率で人気物件になります」(前出の不動産業者)

 件の『めざまし~』で登場した3畳物件に住んでいる24歳の会社員も突っ張り棒で自作の収納棚を設置したり、スーツケースを収納ボックス代わりに使用したり、狭さを逆手に取った生活の工夫が光っていました。

 現在、物件を探しているという20代学生いわく、「駅近で家賃も安くて、DIYも楽しめるなら、狭くても全然OKです。むしろこのサイズ感が落ち着くし、自分の世界にこもれる感じが好きなんですよね。あと、無駄に広いと掃除も面倒だし、物も増えすぎちゃう。限られた空間のほうが、自然と生活をシンプルに整える意識が生まれる気がします。友達が遊びに来ても“この部屋すごいね”って言われるのがちょっと誇らしいです」とのことでした。

“狭さを楽しむ”暮らし方は、古い和室にも波及しています。SNS上では「#和室インテリア」「#昭和レトロ」といった投稿が6万件以上を記録。築45年の和室が“映える空間”だと支持を集めていました。また、昭和のレトロな団地やあえて風呂なし物件を選ぶという人も少なくないそう。

「空間の広さより、自分らしさを出せるかどうか。それが現代の住まい選びでは最も重要だと思います。昭和レトロな和室は家具や雑貨の選び方一つで雰囲気ががらりと変わるし、DIYで押入れをデスクにしたり、ちょっとした棚を作ったりするのも楽しい。

暮らしそのものを“創造する”ことが生活の一部になっている世代にとって、ただの箱としての部屋ではなく、表現の場としての住まいが求められているんです。住空間を使いこなす力が評価される時代が来た、と言えるかもしれません」(ライフ誌編集者)