■不動産業者にとっても魅力的な商材

 不動産業者にとっても、狭小物件は利益率の面で魅力的な商材となっています。ひとつの敷地により多くの戸数を確保でき、管理コストも抑えやすい。加えて、狭い物件だからこそ生まれる入居者の工夫や愛着が、長期的な定住につながることもあります。

「入居者さんが部屋に手を加えてくれることで、次に内見に来た人への印象も良くなりますし、紹介しやすくなるんです。部屋が狭い分、利用者自身が工夫を凝らすことで、物件に“ストーリー”が生まれる。それが結果として空室率の低下にもつながっていると感じます。いわば、入居者と物件が一緒に成長していくような感覚ですね。私たちもそうした可能性のある物件を積極的に取り扱っていきたいと考えています」(前出の不動産業者)

 ただし、狭小物件や古民家風物件にはリスクも……。収納スペースの不足、音の問題、築年数が古いための断熱・耐震性能の低下、あるいは設備の老朽化などがその代表例。

 特に賃貸の場合、建物の構造上DIYに制限がかかることもあります。こうした点を理解したうえで、それでも選ばれているのは、やはりそれを補うだけの“特徴”があるからに他なりません。

 狭くても、古くても、“住まいを楽しむ”視点があれば、それは人気物件になる立派なファクター。SNSの発信力が強い現代においては、自分の部屋が注目を集めたり、「いいね」やフォロワーを増やす手段となったりすることも、物件選びの動機となっています。

 広さや築年数といった表面的なスペックにとらわれず、自分らしさを大切にする若者たちの感性が、これからの不動産市場に新たな風を吹き込んでいくのでしょう。

戸田蒼(とだ・あおい)
トレンド現象ウォッチャー。
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。