■ミシュラン掲載店舗が大人気

 食に関しても同様。ここ最近は「高級レストラン」の需要が急激に高まっていて、ミシュランガイドに掲載された和食店や寿司店に代表される“美食体験”が人気。一方で、たこ焼きや駅弁、田舎料理など、素朴な味に価値を見出す旅行者も多く、日本人が見過ごしがちな「B級グルメ」や「ローカルの味」も、今や立派な観光資源となっています。

 加えて無視できないのが、「アニメ・マンガ」の影響。

「『君の名は。』の舞台である岐阜県飛騨市には、実際に作品の舞台を訪れたいという若者が後を絶ちません。中国のSNSなどでは、“聖地巡礼マップ”が話題となっており、アニメ・マンガの世界に触れるための旅は、一種のムーブメントとなっています」(アニメ誌編集者)

 また、「舞台・音楽鑑賞」を目的にしている人も急増中。宝塚歌劇、歌舞伎、日本のJ-POPアーティストのライブなど、「現場で感動を味わいたい」というニーズが高まっており、東京や大阪、福岡などの公演会場には、中国からのファンも多く詰めかけています。チケットの入手方法や日本語の壁を乗り越えてまでも「観たい」という熱量は、すでにコアな文化的ツーリズムとして定着しつつあるようです。

 さらに、近年注目されているのが「メディカルツーリズム」。人間ドックや健康診断、美容皮膚科や歯科治療といった医療サービスを日本旅行の一環として体験しようとする動きが見られます。特に富裕層にとって、日本は「清潔で安全」「医師の説明が丁寧」「医療技術が高水準」といったイメージが定着しており、「韓国では整形手術、日本では肌質改善や健康志向の美容サービス」という棲み分けが進んでいるのだとか。

 もちろん、「買い物」需要が完全に消滅したわけではありません。しかし、かつてのように「モノを大量に買うこと=日本旅行の目的」と捉える層は減り、「必要なモノを、体験の一部として買う」というスタイルに移行しつつあるのは確か。実際の中国人旅行者に話を聞いてみると――。

「爆買いして帰っても、部屋がモノで埋まるだけ。それよりも、旅館で飲んだ抹茶の味が忘れられない」(30代女性)

「東京よりも、白川郷のような静かな場所のほうが、よほど“日本”を感じられる」(20代男性)

「次に日本に行くなら、能や歌舞伎を生で観てみたい。言葉が分からなくても感じるものがあるはず」(40代・女性)

“モノを買って帰る”のではなく、“感動を持ち帰る”。それが、中国人観光客にとっての新しい「訪日旅行のカタチ」と言えそうです。

戸田蒼(とだ・あおい)
トレンド現象ウォッチャー。
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。