■『エルピス』には及ばないリアリティ
官房長官・羽生の“裏金疑惑”と“大学病院との癒着”を同時に描いたため、展開は二転三転して分かりにくいものになっていた。さらに、社会派エンタメを名乗りながら、進藤や崎久保、新米AD・本橋悠介(道枝駿佑/22)らの、あまりに軽率な行動が繰り返され、見ていて白けるところもあった。
また、ストーリー描写に尺を取られたためか、周辺人物の説明が少なかったことにも視聴者から不満の声が。そのため、番組スタッフ内の人間関係が把握できず、阿部寛がただ暴れているようにしか見えなかったのは、もったいない。それでも14.2%という高い視聴率だったのは、もはや日曜劇場の顔ともいえる、阿部寛への期待からだろう。
今後は、さまざまな政界の闇を暴きながら、進藤(阿部)の父・松原哲(山口馬木也/52)の死の真相に迫って復讐を果たすという、日曜劇場らしい展開になるのだろうが、はたしてこの好調は維持できるだろうか。
Xにも比較の声があがっているが、22年放送の『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ制作、フジテレビ系)のヒリつくほどのリアルさを見てしまった以上、本作はどうしても細部が甘く、勢いだけのドラマにしか見えない。今回の視聴率は初回のお試しで見た人たちが含まれていると思うが、その人々が今後、離れていってしまわないか心配だ。
もちろん制作側も、報道番組の問題に切り込んだ『エルピス』のことは頭にあるだろう。それを踏まえたうえで、『キャスター』は日曜劇場らしい社会派エンターテインメントに臨んでいくはずなので、ツッコミを忘れるような熱い展開に期待したい。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。