■「いくらでも食べたい」嘆く市民の声
魚の餌となるプランクトンの減少。この環境変化に対応するため、兵庫県では下水処理の基準を一部緩和し、ある程度栄養分を含んだ水を海に戻す試みが開始。愛知県では同様の施策により、海苔の色づきや成長に改善が見られるなど、一定の成果が出ているようです。
ただし、こうした水質の調整はあくまで“対症療法”に過ぎず、大きな要因となっているのは、やはり地球温暖化による水温の上昇。気象庁のデータによれば、日本周辺の海水温はこの100年で平均0.62度上昇しています。数字だけ見ると「たったそれだけ?」と感じるかもしれませんが、生き物は長い年月をかけて特定の水温環境に適応してきたため、たとえ0.1度でも水温が変わると、繁殖の時期がズレたり、餌が減ったり、生息域を移動せざるを得なくなるケースが頻発します。
つまり、私たちが感知できないわずかな変化でも魚や海藻、プランクトンといった海洋生物にとっては“大事件”で、近年ではその影響が急激に顕在化。イカナゴをはじめとする多くの魚の減少を招いていると指摘されています。
もっとも、「イカナゴの不漁」というニュースには、「乱獲が最大の原因だと思う」「仔魚は獲らないほうがいい」「乱獲しているという認識を温暖化のせいにするのはちょっとね」と反論する人や、「豊漁の物を食べればええ」「獲れない時は無理に獲らないで」「小魚は大きい魚の餌で良いと思う」といった冷静な声も少なくありません。
それでも、3月12日にイカナゴ漁が解禁された兵庫県内の播磨灘では、「いくらしても食べたい」「少量でもいいから毎年の風物詩を味わいたい」「家族や知人に贈りたい」と、春の到来を待ちわびた人々が鮮魚店に押し寄せたそう。消えゆく春の味を、もう一度食卓に取り戻せる日は来るのでしょうか。
トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。