■『あんぱん』のぶにヒロイン感がない理由
一方、今田美桜演じるのぶも、自らの進路を家族への直談判で勝ち取り受験に合格と、トピックは多かった。それなのに、どうしても崇(北村)の印象が強く感じられたのは、母・登美子(松嶋)がいろいろ立ち回って、悪目立ちしていたこともある。しかし、それを差し引いても、今田の印象が薄く感じられた。
その理由は、のぶが事あるごとに、うまくいきすぎていることにあるのだろう。パン食い競争で出場を拒まれたが、嵩の機転で出場。1位を取り消されたけど、千尋にラジオをもらえる。女子師範学校に進むことを反対されても、家族のゴリ押しで祖父・釜次(吉田鋼太郎/66)を了承させ、はては合格。困難にぶつかるが、どれもやすやすと乗り越えているのだ。
従来の朝ドラヒロインは、その多くが挫折を乗り越えて成長していた。だからこそ、見るものは彼女たちに思い入れができるし、印象深くもなる。しかし、のぶにはその部分が欠けているため、ヒロインであるにもかかわらず、嵩のほうが物語の主人公という感じがするのだろう。
ただ、公式サイトの人物説明に「ちょっと気が弱くて自信のない柳井嵩と出会って激動の時代を共に生き、どんな時も励まし、けん引し続けた」とあるように、“嵩を支えるのぶ”ということになっているので、いちいち挫折はしていられないのかもしれない。2人は表裏一体であり、嵩が挫折すれば、それを励ましてこそがのぶなのだ。
モデルのやなせさんと暢さんが結婚するのは、史実によると終戦後に高知の新聞社に入社してから。のぶと崇が結婚するのも、まだまだ先になるだろうが、一緒になればコンビ感も出て、のぶの存在感も増すだろう。とりあえず、今は嵩が思い悩みながら成長する姿を楽しみたい。(ドラマライター・ヤマカワ)
■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。