■全年齢に届く『対岸の家事』

 ほんわかしたビジュアルイメージながら、またもドスンと響く内容だった。X上では相変わらず、子を持つ親と思える声が多いが、それ以外の層からの声も少なくない。育児にまつわる問題を高い解像度で描いているため、頑張っている人の“しんどさ”が、広くの視聴者層届いているのだろう。

 実際、本作は育児ドラマの体裁をとっているが、メインは、他者には見えにくい生きづらさを可視化して、問題提起することのように思える。『雨のゆくへ』という架空の絵本の中の、「雨を見る誰かがいないとその雨はないのと同じ」という一節がたびたび出てくるが、それがドラマ全体のモチーフ。子を持つ親狙いかと思ったら、実はすべての層に投げかけているのだ。

 それを証拠に、配信サービス・TVerのお気に入り登録数を106.6万に伸ばし、22日に本作を抜いて首位になっている、月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系/毎週午後9時)の107.7万に再び迫る勢いだ(28日現在)。

 次回は、育休中のエリート官僚パパ・中谷(ディーン・フジオカ/44)に誘われ、詩穂(多部)と苺(永井)が英語の体験教室に行くという展開で、子どもの“体験格差”がテーマ。育児の問題のように思えるが、そもそも子ども時代のない大人はいないため、年齢、性別、関係なく届く内容になるだろう。

 惜しいのは、膠原病にかかって生活が一変した主人公の、日常の“生きづらさ”を描いて話題になっている、『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合)と同時間帯なこと。どちらも良作のため、ドラマファンはどちらをリアタイするかで頭を悩ませているようだ。もし、放送の曜日が違えば、第4話までの平均世帯視聴率が5.8%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)の『対岸の家事』は、もっと数字を伸ばしているはずだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。