■絶妙な時代設定の『めおと日和』

 最初から最後までムズキュンを繰り返し、今回も大きな事件はたいしてなし。それでも、これほど視聴者から絶賛され、配信サービス・TVerの再生回数やお気に入り登録の増加数が好調なのは、不倫やモラハラや殺人など、刺激の強いドラマが多い中、本作のようなピュアな恋愛ドラマが求められていたということだろう。

 なつ美(芳根)と瀧昌(本田)のムズキュンを存分に楽しめるのは、本作の時代設定によるところも大きい。昭和11年は日中戦争の前年で、戦争の影はあるものの、まだ瀧昌が戦地に赴くことはない。決定的な悲劇の可能性は低いのだが、なんとなく感じられる不安の中で、より相手への思いは強くなる。キュンが加速するのだ。

 これについては、原作コミックの担当編集者・福島氏が、ダ・ヴィンチWebのインタビューで、《戦中ではないけど、その香りがするぐらいの時代にしたことで緊張感が生まれるといいますか。結果的に「なんでもない日常が尊いものなんだ」っていうのが際立つ時代設定になった》と語っている。この時代設定は、しっかりと考え抜かれたものなのである。

 戦前となると、NHK朝ドラ『あんぱん』も同じだ。しかし、あちらは時が少し進んで日中戦争(昭和12年~20年)が勃発。石材店で住み込みで働く豪(細田佳央太/23)が出征し、物語に暗い雰囲気が漂い始めた。時代の1年の違いで2作は対称的な内容になっており、『あんぱん』の重さに比べると、『めおと日和』はキュンがより際立っているのがわかる。

 第3話では海軍士官の奥様会「花筏の会」会長・光子(筒井真理子/64)と、その娘でタイピスト・芙美子(山本舞香/27)など、なつ美の心をザワつかせる新キャラが登場。さらに次回は、なつ美の幼なじみ・準太郎(小宮璃央/22)が訪ねてきて、瀧昌の嫉妬心に火をつけるようで、キュンがますます盛り上がりそうだ。(ドラマライター・ヤマカワ)

■ドラマライター・ヤマカワ 編プロ勤務を経てフリーライターに。これまでウェブや娯楽誌に記事を多数、執筆しながら、NHKの朝ドラ『ちゅらさん』にハマり、ウェブで感想を書き始める。好きな俳優は中村ゆり、多部未華子、佐藤二朗、綾野剛。今までで一番、好きなドラマは朝ドラの『あまちゃん』。ドラマに関してはエンタメからシリアスなものまで幅広く愛している。その愛ゆえの苦言もしばしば。