■草吉がアンパンマンの“ルーツ”か
さらに倉崎チーフプロデューサーは、中島へオファーした理由として5月2日の出演解禁時に、《右も左も分からない僕(倉崎氏)の監督デビュー作(※『私の青おに』/15年11月)に力を貸してくださった感謝もありましたし、『花子とアン』(14年度前期)で中園さんやチーフ演出の柳川監督(柳川強)たちとのご縁もあってオファーしました》と、コメントしている。
「『あんぱん』の倉崎チーフプロデューサーは元々、阿部さん、河合さん、中島さんの3人にリスペクトがあったということですよね。
そうしたことも影響しているのでしょう、『あんぱん』で阿部さんらが演じている役柄は、いずれも物語に深く関わり、彼らの演技が作品の評価に大きく影響を与えそうな重要人物ばかり。そして、視聴者からも圧倒的な存在感と高い演技力が注目されて、毎朝のようにSNSを沸騰させています。
現在の『あんぱん』は戦時中。そんななかで特に、反戦の立場にいる草吉(阿部)と蘭子(河合)が“際立っている”という声もありますね」(前出の女性誌編集者)
【以下、『あんぱん』のネタバレを含みます】
蘭子を巡っては、結婚を約束していた石工・原豪(細田佳央太/23)が出征から2年後に戦死。これに強いショックを受けた蘭子は豪の葬式で「戦死したら、みんなで立派やと言いましょうって? そんなの嘘っぱちや! みんな嘘っぱちや!」と慟哭。当時の“常識”だった愛国精神、軍国主義に嫌悪感を示すようになる。
一方で、草吉は以前から戦争を嫌っていた。豪の出征前に「戦争なんていい奴から死んでいくんだからな」と、まるで経験談のように話す場面もあった。また、東京・銀座のパン屋「美村屋」で働いていたことをひた隠しにするなど、草吉には何か暗い過去があることがほのめかされていた。
そのため、彼がパンを焼いている朝田家に舞い込んできた“兵士のために乾パンを焼いてほしい”という陸軍からの依頼を拒否。蘭子はそんな草吉に理解を示し、「うちには、わかる気がする」「それを食べて、もっと戦え言うことやろ」と、依頼に前向きだったのぶ(今田)に強く反発した。
5月30日放送回では、のぶの祖父・釜次(吉田鋼太郎/66)が頭を下げたこともあり、草吉は乾パンづくりに協力はしたが、その日の夜に朝田家を去ってしまう。追いかけようとするのぶを釜次は「これ以上、あいつを苦しめたらいかん」と制止。屋村のつらく衝撃的な過去は、第10週(6月2日~6日)で描かれるという。
「蘭子は、軍国主義に染まっているのぶと真っ向から対立するなど、多くの場面で強い存在感を放っているキャラクターですよね。
そして草吉は口は悪いのですが、嵩(北村)やのぶが幼少期の頃から、落ち込んでいる人にあんぱんを差し出す優しいおじさんでもあった。明らかに『アンパンマン』を連想させる人物ですよね」(前同)
『アンパンマン』は、悲惨な戦争を通じてやなせさんが得た“飢えている人に食べ物を差し出す行為だけは、立場や国が違っても絶対的な正義”という人生観に基づいて生まれたキャラクターである。
「パン職人で、髪型とコック帽姿も似ている“ヤムおじさん”草吉は『アンパンマン』のジャムおじさんを連想させますが、アンパンマンの要素も含む、『アンパンマン』の原点のような存在なのかもしれませんね。
今後、『あんぱん』でも嵩は戦争に駆り出されて、戦後に『アンパンマン』を生み出すことになると思われますが、そこで草吉の存在が影響してくるのでしょう。ある意味で、のぶ以上に嵩の人生に深く関わる人物を、阿部さんは演じているということですね」(同)