■“ごちそう=高級な料理”ではない

 ではなぜ、Z世代の若者たちはステーキに魅力を感じなくなったのでしょうか。

「Z世代の中には、子どもの頃から柔らかい食べ物に慣れすぎていて、噛む力が弱くなっていることから“もちもちした食感”を好む傾向にあります。そのため、噛む回数が多いステーキは単純に“疲れる食べ物”として敬遠されやすい。

 また、厚切り肉をナイフで切り分けながら食べるという行為そのものが、彼らにとっては“面倒くさい”“非効率”と映るのかもしれません。味の問題よりも、手間と労力の“コスパ”が気になるというわけです。他にも、“脂っこさ”や“胃もたれ”といった身体的負担も挙げられ、“健康に良くないイメージがある”と避けられるケースが増えているようです」(グルメ誌編集者)

 そんなZ世代にとっての“ごちそう”とは、もはや「高級な料理」や「見た目が豪華なもの」を意味するものではありません。「自分が本当に食べたいと思うもの」「好きな人と一緒に楽しめるもの」が、何よりの“ごちそう”。たとえそれが、コンビニのチキンや、カフェで食べるサンドイッチであっても、そこに自分の気持ちが宿っていれば、それは十分に“贅沢”というわけです。

 自分の価値観に正直でいたい。無理して誰かに合わせたり、見栄を張ったりせず、「今の自分にちょうどいいおいしさ」を選ぶことに意義を感じる。そう考える若者が増えている現状は、ある意味でとても健全な変化とも受け取れます。

 ステーキという伝統的な「ごちそう」に代わって、Z世代がそれぞれの「ごちそう」を見つけていく時代が、すでに始まっているのかもしれません。

プロフィール
トレンド現象ウォッチャー・戸田蒼
大手出版社でエンタメ誌やWEBメディアの編集長を経てフリー。雑誌&WEBライター、トレンド現象ウォッチャーとして活動中。