■あの映画の舞台になった名湯
新しい銭湯もいいが、昔ながらの風情がある銭湯もいい。そんな人にオススメなのが、京成押上線・京成曳舟駅から徒歩5分の『電気湯』だ。創業はなんと大正11年(1922)。関東大震災や空襲を経て、今は鉄筋コンクリートのビルの中にあるが、広々とした脱衣所に畳敷きの小上がり縁台があるなど、伝統的な趣を残している。
「この風情がヴィム・ヴェンダース監督の心を打ったのか、電気湯は映画『PERFECT DAYS』(2023年)に、役所広司さんが扮する主人公が行きつけの銭湯として登場しました。サウナもあるし、水風呂の温度もほどよく気持ちいい。掃除も行き届いた、いいお風呂屋さんですよ。唯一の欠点は……『電気湯』なのに電気風呂がないところ(笑)」
公衆浴場で気になるのが、他の客のマナー。
統計局の調査によると、2008年の段階ですでに日本の家風呂普及率は95・5%にも上り、公衆浴場の入り方が分からない客も少なくない。
「特に、最近のブームのおかげで、サウナーが大挙してサウナ付き銭湯に押しかける事態になっています。それ自体はいいのですが、サウナから上がって汗を流さずに水風呂に飛び込んだり、潜ったりする輩が増えたのには、げんなりしますね」
そんな中井氏がオススメするのが、『初音湯』(東武東上線・成増駅徒歩10分)だ。
「こちらはサウナのすぐ横に立ちシャワーがあり、その目の前に水風呂があります。サウナを上がって汗を流して水風呂に浸かる、という動線がしっかりしているので、サウナ客はストレスなく体を流してから水風呂に入れるのです」
さらには、こんな工夫も施してある。
「私が入ったときは、浴室の壁に『プールじゃないんだから水風呂に潜らないで』という旨の張り紙がありました。こういう努力を続ける銭湯は、全体的にマナーもいいので、客は快適に過ごせるはずです」
プールの話題が出たところで、実際に浴室にプールがある銭湯を紹介しよう。JR総武線・東中野駅から徒歩2分の『アクア東中野』は、創業から100年以上の老舗だが、2010年に大幅改装。現在は、サウナ設備はもちろん、熱めの主浴槽や炭酸泉、キンキンに冷えた水風呂に加え、野外には露天風呂とプールまであるのだ。
「私が入ったときは、水風呂が15℃、プールが18℃でした。プールといっても5メートルほどの短いものですが、ここならなんの遠慮もなく頭からザブンと入れます」
以上、水風呂のある東京銭湯5選。これからの暑い季節、入浴前&後の水分補給はお忘れなきよう!
中井仲蔵(なかい・なかぞう)
1968年、富山赤十字病院生まれ。普段は某中小企業に務めつつ、こっそり雑誌やウエブ媒体に原稿を書くコラムニスト。東京で営業中の銭湯419軒すべてに入湯した銭湯マニアで、他にも歌舞伎や文楽(人形浄瑠璃)などの古典芸能から、アメリカン・コミックス、映画まで、コラムのジャンルは多岐にわたる。