■『戦隊』ではすでに生成AIが用いられている
なお、『仮面ライダー』と並ぶコンテンツ『スーパー戦隊シリーズ』では、すでに生成AIが活用されている。
『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)では、終盤に登場した怪人「秘密鬼」をデザインするにあたり、デザイナー・篠原保氏が参考程度に生成AIを利用したことが公式ガイドブック『抱腹絶桃』(ホビージャパン)にて明かされているのだ。もちろん完成稿の大部分は篠原氏のオリジナルだが、《背中の虹とかは自分の発想からは出なかった気もします。「もう俺、いらないんじゃないか」と真剣に思いましたね》と、同ガイドブックにコメントしている。
また、現在放送中の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』では、敵組織の女王が“究極の生成AI”という設定。登場する怪人「ノーワン」のデザインにも“生成ワードを誤入力・誤認識したことで変な要素が組み込まれている”というお遊びが仕込まれている。たとえば「ときめきノーワン」に「トキ(朱鷺)」、「鬼(おに)ノーワン」に「うに(雲丹)」の意匠が混ざっている。
しかし、そうやってクリエイターが生成AIを取り入れ始めている一方で、生成AIには、著作権侵害の恐れもある“××ふう画像”が粗製乱造されている現状など、マイナスのイメージが強いことも事実。2024年10月には、山寺宏一(64)ほか多くの人気声優が、本人に無断で学習・生成されるAI音声や映像に反対する有志の会『NOMORE 無断生成AI』を結成している。
そして、最近の生成AIを巡る出来事では、高橋一生(44)主演、荒木飛呂彦氏(65)の同名漫画が原作の『岸辺露伴は動かない』シリーズの劇場作品『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(5月23日公開)の劇伴(音楽)に生成AIを使用したことが注目された。
同映画を担当した作曲家・菊地成孔氏が率いる楽曲制作グループ『新音楽制作工房』は、公開前からXで《世界の娯楽映画史で初の、全曲AI作曲(全面的使用だけではないですが)のOSTになっています(既成曲は別)》と明言していたが、批判の声が寄せられ、SNSが荒れてしまったのだ。
騒動を受けて、『新音楽制作工房』は6月14日に1万6000文字に及ぶ声明文を発表。違法性は全くないことを強調したうえで、
《あらゆる道具に「危険で違法な道具」と「安全で合法な道具」の差などありません。どんな道具だって、楽したりインチキしたり、悪用しようと思えばできますし、新しい表現、感覚の拡張、といった芸術領域を徹底追求しようと思えばできます》
《我々は、最初の音楽制作 /演奏ツールとしての「楽器」から、最新ツールとしてのAIまでの、すべての音楽用テクノロジーを等しく使用し、音楽表現のネクストレベルを常に目指しています》
などと、生成AIを制作に取り入れる目的や理由などを詳細に説明することとなった。
そうした背景もあり、賛否両論入り乱れている『仮面ライダーゼッツ』の特報映像――筆者は制作する東映に、同作品での生成AIの使用について事実確認の取材を行なったが、「作品の詳細についてはお答えしておりません」ということだった。
これまでも『仮面ライダー』では、平成ライダーシリーズ第1作目の『仮面ライダークウガ』(2000年)に当時としては画期的なハイビジョン撮影を導入するなど、最新技術が積極的に取り入れられてきた。『仮面ライダーゼッツ』では、果たして――。
特撮ライター・トシ
幼少期に『仮面ライダーアギト』を観て複雑なシナリオに「何かとんでもないモノがスタートした!」と衝撃を受ける。その後、歳を重ねても熱量は衰えず『クウガ』から始まる平成仮面ライダーシリーズと現在も歴史が続く令和ライダーはすべて履修し、『スーパー戦隊シリーズ』、平成以降の『ウルトラ』シリーズも制覇済み。『仮面ライダーゴースト』の主人公の決め台詞でもある「俺は俺を信じる!」を座右の銘に仕事に全力全開。